劇場公開日 2020年9月18日

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「手に汗握る緊迫感溢れる作品だけど、看守…。」プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5手に汗握る緊迫感溢れる作品だけど、看守…。

2020年10月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

何度訂正しても、本作のタイトルが『プリズン・ブレイク』に脳内変換されてしまう観客による感想です。

南アフリカの反アパルトヘイト闘争の過程で逮捕された政治犯の収監から始まる物語ですが、冒頭で簡潔に南アフリカにおける状況を描写して以降は、ほぼ全編ダニエル・ラドクリフとダニエル・ウェーバー扮する主人公二人、そして一人の囚人の三人の視点で描かれます。黒人の配膳係や「良心の囚人」デニス・ゴールドバーグ(実在の人物)との対話などの描写を除いて、アパルトヘイトといった南アフリカの政治的な状況説明についてはそれほど触れられません。つまり主人公達を取り巻く状況や歴史的背景についての知識があまりなくても、脱獄物の映画として楽しめるように構成されています。

ラドクリフ扮するティム・ジェンキンは、政治犯として初めて収監されたであろうにも関わらず、収監されるにあたって非常に手回しが良く、さらに収監後も手に入るあらゆる物と機会を捉えて脱出の機会を窺います。

あり合わせの道具に頼った脱獄計画は常に綱渡り状態であるため、たびたび訪れる危機には確かに手に汗握ります。ところが看守はみんなスニーク型ゲームに登場する敵NPCのAI程の知能もないのか、結局どの状況も彼らの失点によって切り抜けることができてしまうため、だんだん緊張感がなくなっていきます。もしかして現実の刑務所の状況を忠実に再現したのかも知れませんが、それで物語としての緊迫感を失ってしまうのはいかがなものかと…。『マッドメン』のジョン・ハムあたりに冷酷非道な看守を演じてもらうと、もっと敵側にも厚みがでたのでは、と勝手にキャスティングを想像しました。

なお、すき間から覗く人物の目だけが浮かび上がるような映像、解錠のメカニズムの精緻な描写など、物語の緊迫感を盛り上げる映像は非常に見応えがあります。

yui