配信開始日 2020年1月31日

「行き当たりばったりが生み出すエネルギー」アンカット・ダイヤモンド バッハ。さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0行き当たりばったりが生み出すエネルギー

2020年3月25日
PCから投稿

サフディ兄弟の前作『グッド・タイム』を観た時に、なんだこれはと唖然とした。あくまでもいい意味で。犯罪者の兄が、病院に収容された弟を脱走させる、という当初の物語が、ドジと勘違いとその場限りの浅慮によって、まったくどこに向かっているのかわからないジェットコースターに乗せられてしまう。やたらとエネルギッシュなナンセンス。よくできた物語へのアンチテーゼであり、とてつもない変わり種が現われたと思ったのだが、サフディ兄弟はどうやらもっと先を見据えていたらしい。本作では、映画から物語性を限りなく引き剥がす試みを、さらに推し進めているとしか思えないからだ。アダム・サンドラー扮する主人公が、いったい何を考えて、どういうつもりなのか、ロジカルな答えはまったく見つからない。かといって破滅願望なわけでもない。成功も欲しいし、家族も円満に運営したいし、美人の若い愛人ともうまくやりたい。その瞬間瞬間の刹那が奇妙なエネルギーを生み、まったく論理的でないクライマックスになだれ込む。サフディ兄弟は戦略的に映画という表現の解体に挑み、新たな刺激を注入しようとしている。20年後に重要作になっているような気がする怪作。

村山章