劇場公開日 2020年7月10日

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「美しい映像と音楽が紡ぐ驚きの展開が引っかかりも含めて心に残る」WAVES ウェイブス ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0美しい映像と音楽が紡ぐ驚きの展開が引っかかりも含めて心に残る

2020年8月2日
iPhoneアプリから投稿

極上の映像と音楽が奏でる裕福な家庭での黒人兄妹の青春物だと思うと結構ヘビーで意外な展開があり一筋縄ではいかないのには、驚くと同時に居心地の悪い感動?をもたらしてくれる。

トレイ・エドワード・シュルツ監督の作品は初鑑賞だが、明るいフロリダの太陽の下で、兄とその恋人に起きるドラマの流れは、不安要素含み、鎮静剤中毒に陥る雰囲気や中絶反対派とやり取りなどで、サスペンスホラーなどを過去に製作していた様子が伺えて、大切な人を失ってしまう展開とテイストなどは、今作の製作会社のA24の怪作ホラー「ヘレディタリー継承」の展開を思い起こす。
だから妹が道中に車の窓から身を乗り出す場面に不必要にドキドキした。

人物の心情を画面サイズによって表すところやパトカーの回転灯の光と音が被さる心情演出や心情寄り添う音楽も効果的。

ネタバレあり

気になるところは、レスリングで優秀な選手である兄が、精神的に追い詰められて薬物依存になっているとはいえ、妊娠した恋人に暴力を振るって結果的に殺人を犯してしまう展開は、かなりドン引きしてしまう。もちろんそれ相応の罰を受けるのだが、相手側の残された家族の様子なども重苦しくて拒否反応を持つ観客も居ると思う。それも含めての人生の波を描いているが、最初に記した居心地の悪い感動だと提示している。

主役の家族は、有色人種だが、裕福で特に差別的な扱いを受けずに暮らしている様に見えるが、産婦人科の前で抗議をする中絶反対派の女性が、アフリカ系の兄に対して蔑称の言葉を使い激怒させる場面でアメリカのリアルを垣間見せる。ただ、兄妹ともに恋愛関係に落ちるのは、それぞれ違う人種なので差別は超えられるとの作り手の思いも感じる。

前半で目立たない妹が主役になる後半は、学校で居場所がない自分を受け入れてくれる恋人との交流を通じて互いの家族との再生の物語として機能には希望の波を立ててくれる。

引っかかりも含めて心に残る作品。

ミラーズ