劇場公開日 2020年11月20日

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「敬意・誠意・熱意のこもった予想外の良作」フード・ラック!食運 かにぱんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0敬意・誠意・熱意のこもった予想外の良作

2020年11月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

お笑い芸人寺門ジモンの初監督作品、予想を裏切る出色の出来に驚きを隠せません。
主人公と母を軸とするヒューマンドラマではありますが、作中に貫かれているのは「肉」そしてそれを扱う「料理人」たちへのあふれるばかりの敬意と愛情です。それを支えるのは監督自身のこだわりと、数十年蓄積されてきた確かな下地があります。非常に不格好ではありますが、その誠意が嫌というほど伝わってくる瑞々しい作品です。

もっとも映画自体の巧拙は決して褒められたものではありません。数々の批判には「全くおっしゃる通りです!」と何度も頷くしかありません。生かされないタイトル、忘れられる設定、場面転換の歪さ、2時間ドラマのような演出、稚拙なカメラワーク、お涙ちょうだいな安直な脚本、一から全部説明してくれるキャスト・・・粗を挙げれば枚挙に暇がありません。

もっと上手に映画を作れる監督は日本にいくらでもいるでしょう。学生の方が洗練された作品を作るに違いありません。しかし、これほどの魂を込めてこの作品を撮れるのは日本で「寺門ジモン」一人しかいません。

彼の一番の主張は最後の一シーンに凝縮されるでしょう。そこには「肉」「料理人」への精一杯の敬意、愛情、感謝にあふれています。おいしい肉をお客様に提供するために、手間暇をかけ身を尽くしてくれる店主、閉店しても心の深いところに残り続けているあの味、どうしても多くの人に残したかったのだと痛切な思いが伝わってきます。

何度でも言いますが、この映画は決して上手に作られた作品ではありません。本当に、2時間ドラマじゃ駄目だったの?という演出で、そこは擁護のしようがないのです。ですが、映画の素人が、何としてでも伝えなくてはいけない!とメガホンを握ったのです。そこに込められた熱量は、尋常なものではありません。スクリーン全体に移される肉!肉!肉!そして料理人の手仕事!こんな映画はこの「フード・ラック」の他にありません。

綺麗事をそれらしくまとめ、表層をなぞったに過ぎない映画を見ると心が寒々とします。そんな映画が沢山ある中で、これほど敬意・誠意・熱意にあふれた不格好な映画が生まれたことを、とても嬉しく思います。

今、コロナ禍で飲食店は苦境に立たされています。この状況下で、この作品が公開されることに意味があるのだろうと思われ、巡り合わせに不思議な縁を感じずにはいられません。

(映画関係者に怒られそうですが)この映画を見ても見なくとも、このご時世、身近で頑張っている飲食店や料理人へ少しばかりの応援をしていただけないでしょうか?そう問いかけたくなる作品です。

かにぱん