劇場公開日 2021年2月11日

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「 社会は残酷だ。でも、それでも守るべき価値はある……のだろうか。」すばらしき世界 くろしげさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 社会は残酷だ。でも、それでも守るべき価値はある……のだろうか。

2022年11月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

 こういう映画が見たなかったなと思える映画の一本でした。

 公開前の予告編から期待をしていたのですが、色々とタイミング悪く見れなかった気がする。公開日を調べてみたら案の定「二月は大変だったな」と思う時期だった。

 そんな曰く付きもあり、約一年半の時を経てようやくの鑑賞。

 監督は西川美和。自分も好きな「永い言い訳」などの監督さんです。

 原作は「身分長」という、実在の人物をモデルにした小説を基に作られている模様。この小説自体も1990年という古いものであり、現代風にシフトして作り直すにはそれなりに大変だったと思う。なんせ、一歩間違ってしまえば「ヤクザファンタジー」なってしまうので。

 しかし、蓋を開けみれば、そんな不安など一蹴するようなまとまり具合だった。

 しっかりと主人公が更生していく様……というより、現代の反社(暴力団組織)に対する厳しさがよく分かる。カタギと言われる我々の取り巻く世間の厳しさが「三上正夫」に襲いかかる。元々、短気で喧嘩早く、シャバでも刑務所でも問題続きだった男だ。なかなか上手くいくわけがない。

 おまけに持病の高血圧もあり、出所後も仕事や運動にも制限が掛かるなか、生活保護を受けつつ職探しも難航する日々。そんな中「母親探しを手伝う」手前、三上を取材したいと申し出る「マスコミ」の人間が現れたのだった。

 あたかも、現代のマスコミをあり方を問われるような描写も多々あり、それを食い物にしようとする人間たちの闇を見ているような気持ちにもさせられる。その一方で、三上を必死に支えようとする人間たちもいるのだ。

 とはいえ、三上は正義感?がやたら強く、己から湧き出る感情を抑えきれない。多分、筋は間違ってはいないのだろう。彼にとってみれば仲間を守っていただけ。しかし、そんな失敗を何度も繰り返すうちに三上も自分の取り巻く環境を徐々に理解し始めるのだった。

 正直言いますと、これが「更生」だというのは少々釈然としない感じもした。これは、更生というより「適応」に近い感じがする。許せないことでも、悪いことでも、黙って目を瞑れと言っちゃっているのですよね。

 そうして、ようやく就職先が決まった介護施設でのやり取りの一件など。
 確かに、暴力は良くないが、殴られても仕方ないようなゴミクズが沢山いるのも事実。また、介護施設では「そういう人間」が集まってしまうというジレンマも存在している。

 「善良な市民がリンチされておっても、見過ごすのが立派な人生ですか?」

 「なんで、戦ってブチのめすしか策がないと思うんですか!?」

 「お前らような卑怯者になるぐらいなら、死んだ方がマシったい!」

 でもね、僕は思うんですよ。いま目の前で助けなければダメだという時に、素直に世間のいうことやルールに則ることが本当に大事なことなんでしょうか。命の危機に晒された時、黙って立って見ているのが最善な策なんでしょうか。何かが間違ってる気がしてならない。

 僕らの生きてる社会ってなんなんでしょうね?

 暴力は確かに良くないが、相手が圧倒的な暴力で来た時はやはりどこかで戦わないとならない。暴力に対しては、暴力で対抗しなければならない時がある。だって、そうでもしないと全てが奪われてしまうのだから。

 現在起きているウクライナとロシアの戦争一つとってもそうだ。
 あんなことになったらそんな悠長なこと言ってられるだろうか。話が極端だというかもしれないが、現実に起きてしまっている事態でもある。こんなこと起こるはずがないという事象が実際に起こっているのだ。

 そんな時、あなたは大切な人をどうやって守りますか?

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くろしげ