劇場公開日 2021年1月22日

  • 予告編を見る

「リアリズムとマジックリアリズムが邂逅する」羊飼いと風船 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5リアリズムとマジックリアリズムが邂逅する

2021年2月28日
PCから投稿

『タルロ』では、近代化の波に翻弄されるチベットの姿を、朴訥した世間ズレしない男の悲喜劇として描いていたペマ・ツェテンが、今度はひとつの家族の肖像から似たテーマを描いているのだと思い込んでいいた。が、実際に観てみると、予想を遥かにこえてフェミニズム的な現代性のある、普遍的な社会と女性についての物語だった。

普遍的と言っても、この映画の時代設定である1990年代のチベット女性たちの現実と、他の地域や国々、別の時代の女性たちの境遇が同じであると言うつもりではない。ただ、まったく違う文化圏の物語を俯瞰で眺めようとしても、否応なしにわれわれを取り巻く現実のことも考えずにはいれないくらい、ここで描かれる登場人物それぞれの気持ちのズレはリアルなものとして響いた。

そしてそれらのテーマをあくまでも映像に落とし込み、最後にファンタジーなビジュアルで理屈をねじ伏せる辺り、久しぶりにモフセン・マフマルバフの映画を観たような感覚を堪能した。

村山章