劇場公開日 2021年1月22日

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「伝統的価値観と現代的価値観の衝突」羊飼いと風船 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5伝統的価値観と現代的価値観の衝突

2021年1月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

風船とコンドームは似ている、ということは多くの人が一度は思ったことがあるんじゃないだろうか。しかし、そんな思いつきからこんな崇高な作品が生まれるとは思ったこともなかった。本作にはチベットの人々の生命観と中国の支配に置かれた同国の苦難、近代的価値観と伝統の衝突が描かれている。
三人の子供がいる夫婦は性生活も盛んだ。子どもがコンドームを風船にして遊んで駄目にしてしまったせいで母親は妊娠する。貧しい羊飼いの家庭には4人目を養うお金もない上に、中国の政策上罰金も課せられる。しかし、チベットには死んだ家族が新しい命となって帰ってくるという伝統的考えがあり、新しい子供は祖父の生まれ変わりだと言う。伝統と政策、貧困の板挟みにされた母親は深く苦悩する。
女性の身体の権利の視点に立てば伝統を押し付け産ませることは良くないことだ。チベットという少数民族の弾圧という点からみると、堕ろすことは弾圧側の中国の政策に乗り、民族の伝統をないがしろにすることにもつながりかねない。あまりにも深い葛藤が本作にはある。

杉本穂高