劇場公開日 2020年7月24日

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「安易な妥協が名作を台無しに」アルプススタンドのはしの方 ヤスリンさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0安易な妥協が名作を台無しに

2020年8月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 この作品の原作は、全国高等学校演劇大会で最優秀賞を取った作品で、後にリメイク・舞台化されて好評を博したものです。今作はその映像化であり、ネットの評価も非常に高かったため、楽しみにして劇場に入りました。

 しかし始まって5分、その期待は大きく裏切られました。それは、舞台が甲子園球場のはずなのに、全く違う地方球場だったことです。最初これは元の脚本を改編して、地方大会の話にしたのかと思ったのですが、台詞を聞くとここが甲子園球場だとのこと。おいおい、ちょっと待てよ!

 私は阪神タイガースの熱狂的ファンであり(ファンクラブダイヤモンド会員)、また高校野球のファンであります。年に5回は東京からわざわざ関西に遠征して、甲子園で試合を観戦しております。一度でも行ったことがある人なら分かると思いますが、甲子園球場は特別な存在です。それは試合に出る選手だけでなく、スタンドで応援する観客にとっても特別なのです。その大きさ、設備の素晴らしさ、雰囲気、どれをとっても代えがたいまさにレジェンドな場所、それが甲子園です!

 しかし、映画に出てくる球場のスタンドは、甲子園とは全くの別物。ベンチの色が水色で違うし(本物はモスグリーン)、コンクリートはボロボロ(本物は古いけどきちんと整備されてます)。そして極めつけは、スタンド端の向こう側にはこんもりとした森!本物ならアルプススタンドの向こうは巨大な外野スタンドが見えているはずなのに。たとえて言うなら、時代劇を見に行ったのに、町並みは現代の町並みが映っている感じ?これだけでげんなりしてしまうというか。

 これだけ舞台が間違っていると、どれだけ脚本が素晴らしくても、どれだけ役者が良い演技をしても、全部嘘に見えてしまうのです。創作は壮大なフィクション、だからそれを観客に信じさせるには、シチュエーションをリアルに描かなくてはなりません。でもこの作品は全くそれが出来ていないのです。

 自主映画で甲子園で撮影するお金が無い。そうでしょうか?プロデューサーはそのお金を集める努力をしたのでしょうか?甲子園球場を借りる努力をしたのでしょうか?ちなみに甲子園球場は平日3時間40万円で借りられます。撮影時間を考えたらその倍の6時間あればいけるでしょう。ましてや撮影自体はグラウンドではなくアルプススタンドなのだから、交渉次第でもっと安く出来るはずです。お金はクラウドファンディングで集めるとか、いくらでも方法があったはず。それをせずに、安い地方球場(旧平塚球場・現バッティングパーク相石ひらつかスタジアム)でごまかしたことが全てを台無しにしてしまいました。

 そもそも、この映画のテーマは「しょうがないなんて言うな!前を向いて努力しよう」だったんじゃないの?にもかかわらず、制作者自身が「お金が無いんだから甲子園じゃなくてもしょうがない」っていっているのは裏切りなんじゃないの?

 もうね、日本映画の一番悪いところが出てしまいましたね。「お金を掛けなくても良い物は作れる」を自分たちに都合の良い「お金を掛けずに作る」に置き換える悪癖。これじゃハリウッドはおろか、韓国映画からもどんどん置いていかれちゃいます。

 この作品、もう一度リメイクして欲しいです。今度はちゃんと甲子園でしっかりロケをして、映像化するのだからスタンドだけではなく、カットバックで時々試合のシーンを入れるとか、舞台では出来なかった演出も加えれば、素晴らしい作品になると思うのです。

 ちなみに、もしこの作品がちゃんと甲子園で撮られていたら、星4つ以上は付けていました。本当に残念。

追記:とある方から、制作は甲子園球場と高野連を含めて3ヶ月交渉したが断られたと聞きました。高野連?何故高野連が関係するのか、そもそも甲子園球場は阪神電鉄の所有物であり、その使用許可には高野連の許可は要りません。これは想像なのですが、制作は実際の高校野球選手権の映像を使おうとしたんじゃないでしょうか。そして高校野球選手権を商業利用することを許されず、スケジュールの関係で甲子園での撮影を諦めた、と。いずれにせよ、甲子園で撮影できない以上、脚本を変えるべきでしたね。例えば地方大会の決勝で勝てば甲子園に行けるとかにすれば、まだ見ていてリアリティがあったのに。

ヤスリン
ウチコフさんのコメント
2020年8月20日

いろいろ雑でした。

ウチコフ
2020年8月16日

ホント地方の球場でしたね、、、。

巫女雷男