劇場公開日 2020年2月21日

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「ダンスの曲名に込めた強烈な意志。」スウィング・キッズ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ダンスの曲名に込めた強烈な意志。

2020年6月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

本作では、朝鮮戦争当時の、しかも捕虜収容所という、政治的に極めて錯綜した状況を舞台としています。その複雑な舞台設定とは裏腹に、少しレトロなデザインのポスターは非常に明快で、主演の二人の笑顔と躍動感に溢れた姿が、強い印象を与えています。

 もちろん複雑な時代の複雑な舞台設定のため、ポスターが与える印象のように物語は直線的には進んでいきません。何かの技芸がバラバラだった人々を一つにまとめていく、という定型化した物語を踏襲するようで、次の場面ではその期待をあっさりと裏切ってくれます。本作のもうひとりの主人公と言っても過言ではないタップダンスは、まさに彼ら夢と生きがいを体現しており、そのリズミカルな振動を体感することで、登場人物と観客は文字通り一体化し、彼らの幸福感、熱意をまさにわがこととして体験することを可能としています。

見所の多い作品ですが、とりわけみごとなのは主人公、ロ・ギスが、ある事情で心ここにあらず、という状態でタップダンスを披露する場面で、技法的には素晴らしいダンスなのに、そこに全く心がこもっていないことを感覚的に理解させていたことです。この場面があるからこそ、稚拙でも心のこもったダンスと、そうではないダンスとの違いが際立っています。演技、演出の見事さにはひたすら感心するばかりでした。

意外な結末と、その後エンドロールに挿入される写真の対比がひたすら胸を打つ一作です。

yui