劇場公開日 2020年2月28日

  • 予告編を見る

「大味」初恋 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0大味

2020年7月11日
PCから投稿

三池崇史監督は、スタイルを貫いている──とは思わない。プロダクトの意向にあわせて、酷いときもあれば、いいときもある。多作で振幅がはげしい。山っ気の大きい商業映画の監督だと認識している。

海外先行公開の鳴り物入りで、アメリカでは、ほぼ称賛だった。幾つかの評でエドガーライトのベイビードライバーさえ引き合いにされていたことに驚いたが、個人的には凡作だった。ゲリラロケの野次馬を数えられるほど冷静でいられた。

筋書きに意外性はあるが意外ではない。全キャラクターに既視感がある。セリフが、状況や境遇を説明しており、もっさりしている。撮影が暗すぎて見づらい。登場人物が多すぎて、主役が立ち上がらない。見終えてタイトルが成り立っていないことに気づいた。
荒削りというより、とても忙しい人が撮った映画──という印象だった。

このプロットの狙いは、欲や私恨でカオスへ至り、三つ巴、四つ巴となる、ギラギラの抗争のなかに、ポッと咲いた純愛──だったはずである。
筋はトゥルーロマンスで、パートアニメーションはキルビルを思わせる。すなわち映画は、タランティーノファンへの媚びを持っていた。

日本映画が海外市場へ媚びるのは、合理的なマーケティングだと思うし、むしろもっと媚びてもいい気がする。ただ──媚びていることが観衆に解っては逆効果に陥る。たとえばスキヤキウエスタンジャンゴなんて露骨に阿付していると、白ける──わけである。

本質的にいい映画が媚びを凌駕するという事実がある。
サムライも忍者もポケモンもない国が、アウェーの映画祭で最高賞を獲ってしまうというバイタリティーを、パラサイトに見ている。だから──ではないが、この映画にそこはかとなく漂う媚びを、個人的にはいやらしく感じた──のだった。
が、アメリカは歓迎した。rottentomatoesなど、賛辞だらけだった。

深作欣二に傾倒したタランティーノがつくった映画は深作欣二よりも楽しい。ならば、タランティーノを再翻案できるか=逆輸入が成り立つか。をやってみた感のある映画であり、個人的には失敗しているように思えたが、海外の称賛をみて、いちばんの驚きは、この映画がタランティーノを意識していることに、外国人が気づいていない、もしくは気にしていないことだ。かれらは鶏か卵かを気にしない。

日本人は、日本のヤクザ映画に影響を受けたとはいえ、むしろタランティーノのほうが元祖だと思っている。しかし外国人は、三池映画に元祖の血脈を見る。──海外の高評価に、そんな構造を感じた。

しかし大味すぎるのではなかろうか。撮影も構図も急場のようなざっくり感。キャラクターにも魅力を感じない。笑える要素も微かで作用しているとは思えない。唯一、ワンの片腕ポンプアクションは面白いキャラクタライズだったが、個人的にこの映画の海外の称賛は理解できなかった。原田眞人監督のリターンズのスベり方に似ていたと思う。

しばしば、日本映画に対する、imdbやrottentomatoesなど、主にアメリカの外国人評点は、プラスαの甘さを持っている──と思う。その甘さとは、もちろん日本文化に対するかれらの好印象である。
灯台もと暗し、と言うが、本当である。

コメントする
津次郎