劇場公開日 2019年12月13日

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「「ありがとう。だが邪魔するな」」シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5「ありがとう。だが邪魔するな」

2019年12月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

人間ドラマであり、期待したほど“アート”映画ではなかったが、それでも謎めいたこの建造物の生い立ちを知ることができて良かった。
しょせん虚構の物語としても、「こんな建造物を作るのは、こういう強靱で偏屈な人だろうな」というイメージと、まさに合致する作品だった。
息子に対して「ありがとう。だが邪魔するな」と言う男。絵葉書写真の撮影シーンでは、怒ったのかと思いきや、「喜んでいる」と見抜く妻・・・。

一番の印象は、このような建造物を可能たらしめた「時代」だった。
田舎の郵便夫が、アンコールワットやマヤの神殿を知ったのは、絵入り雑誌や絵葉書が広く普及してこそだ。
税関吏だったアンリ・ルソーと同じ世代の人だが、「素朴派」アートが評価され始めた時代だったのも幸いしただろう。1969年頃に文化財指定になった。
2世紀前なら「けしからん」と処罰されていただろうし、1世紀前なら知られずに朽ち果てたかもしれないし、半世紀後ならシュヴァルは戦争で死んでいたかもしれない。

情報過多で、便利で、せわしない“現代”で、このような建造物ができると思えないのが面白い。
現代の遊園地の施設でさえ、しょせん“ハリボテ”に過ぎず、このような高密度な装飾は不可能だろう。技術的には可能でも、装飾だけでは「金」を生まないからである。
また、地震国・日本では長期間存在できないかもしれない。
当時のスローな生活や、入手できた材料(石と石灰・セメントと針金・金属棒)と運搬手段が、シュヴァルの性格と強靱な肉体に、分かちがたく結びついたために生まれ出た“時代の奇跡”に思える。

Imperator