「貴方は信心深いか。」ペトルーニャに祝福を レプリカントさんの映画レビュー(感想・評価)
貴方は信心深いか。
三十歳半ばで高齢の両親と実家暮らしのペトルーニャ、未だに就職経験もない彼女は母の薦めで何度も面接を繰り返すも就職出来たためしはない。
今回も縫製工場の面接を叔母の紹介で受けるも、面接担当の嫌みな男から侮辱的な扱いを受ける。
帰り道で偶然昔ながらの教会の祭りに出くわした彼女、川に投げられた十字架を手にした者はその年幸運に恵まれると聞き、思わず川に飛び込み十字架を手にしたことから小さな田舎町は大騒動となる。
マスコミにはニュースで取り上げられ、警察署に長時間拘束されたあげく、強迫めいた取り調べを受け、帰ろうとしようものなら暴徒にかこまれもみくちゃにと散々な目に遭う彼女。これでは幸運の十字架どころか彼女にとっては不幸の十字架だ。
ペトルーニャは別に信心深いわけではない。たまたま一心不乱に幸せになれるという十字架を手にしたにすぎない。それでも人生で良いことがなにもない彼女は十字架を頑なに手離そうとはしない。
そんな彼女を信心深い母親や、神父、信者である男たちがよってたかって苦しめる。伝統とやらに拘りそれにしがみつく彼ら。何故にそこまでむきになるのか。
何故女が十字架を手にしてはいけないのか、その問いに明確に答えられる者はいない。ただ伝統だからと繰り返すのみ。
古い伝統と戒律に縛られた神父、信仰心ではなくただ偏狭的な考えにとらわれている男たち、彼女はそんな彼らを見ていて十字架にこだわっている自分が可笑しく思えたのだろうか。夜遅く警察署を出る際、彼女は私にはもう必要ない。あなたや彼らにこそ必要だろうと十字架をあっさり神父に手渡す。
彼らのように古い考え、偏狭的な考えに縛られ伝統という名の十字架を一生背負って生きてゆくなどまっぴら御免。雪の積もった夜道を帰る彼女の足どりはまるで何かから解放されたかのように軽やかだった。
いわゆる古き伝統といった固定観念に固執する世の中を皮肉った作品であり、本作のレビューのいくつかを見ていてもそれが如実に反映されていて大変興味深いことになっている。