劇場公開日 2019年8月24日

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「瀬長フミさんは良妻の鏡」米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0瀬長フミさんは良妻の鏡

2019年8月29日
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鑑賞方法:映画館

 瀬長亀次郎のドキュメンタリー第二弾である。今回最も心に残った言葉は「小異を捨てないで大同につく」だ。説明不要、言葉のままの意味だ。人はそれぞれに生まれながらの違いがあって、その違いをなくすことは不可能である。だから違いを認めたまま、大きな同一の目的のために連帯するのが現実的で、そのやり方であればその後の内部対立を生まないという考え方だ。実に理に適っている。
 現在の野党も同じやり方をすればいいという声もあるが、たとえば憲法改正についての考え方は同じではない。野党議員の中にも憲法改正に賛成の者がいる。そして憲法改正は小異ではない。大同だ。消費税増税についても同じである。
 そう考えると、この国で野党と呼べる政党は共産党と社民党だけということになる。れいわ新選組はまだ海のものとも山のものともしれないし、N国は与党でも野党でもない。立憲民主党と国民民主党は憲法改正について大同団結していない。公明党と維新の会は与党である。議員定数465人の定数の内、野党は共産党12人と社民党2人の14人。割合でいくと僅か3パーセントである。道理で共謀罪も安保法制も特定秘密保護法もサクッと通るはずだ。
 議院内閣制では衆議院議員の多数派が総理大臣を指名するから、行政も国会も同じ権力者に集中する。そして最高裁判所の裁判長は内閣が指名し、裁判官は内閣が任命するから、司法も行政も立法も同じ権力者である。「私は立法府の長である」と暗愚の宰相アベが言ったのは、理論的には間違っていても、現実的にはそのとおりである。「私は行政府と立法府と司法府の長である」と言いたいところなのだろう。実際に最高裁が行政府に不利な判決をしたのはここ最近では見たことがない。
 これは実は由々しき事態ではなかろうか。有権者のバランス感覚がおかしいとしか言いようがない。アメリカの大統領選挙でも大抵は接戦だ。投票率は日本と同じくらい低くて50%ちょっとだが、アメリカでは投票するために有権者登録をする必要がある。日本でもアメリカと同じように選挙のたびに有権者登録が必要になったら、投票率は激減するだろう。半減して25%くらいになる気がする。そうなったらもはや民主主義国たり得ない。
 瀬長亀次郎の長い戦いはその後も引き継がれてはいるが、少なくとも選挙の結果を見る限りは、日本の有権者は沖縄などどうなってもいいと考えていると判断せざるを得ない。非常に残念である。

 さて、瀬長亀次郎のブレない姿勢はドキュメンタリー第一弾でも十分に解ったつもりだったが、沖縄を統治する米軍から被選挙権を剥奪されたことは本作品で紹介されるまで知らなかった。政治家にとって被選挙権がないということは四肢をもがれたに等しい。しかし亀次郎には、何もできないから諦めるという選択はなかった。被選挙権がなくても立候補する。選挙運動をする。賛同してくれる同士を応援する。
 家にあっては相談に来る人の話をすべて聞く。アドバイスがあれば話して聞かせる。金が無いと言われれば借りてきて渡す。借りてくるのはいつも亀次郎の妻瀬長フミさんだ。亀次郎は政治家だからそれなりの対面を保たなければならない。だから影でフミさんが苦労していた。蓋し良妻の鏡のような女性である。
 本作品のハイライトはフミさんの知られざる活躍である。この女性がいたからこそ、瀬長亀次郎の不屈の人生があったと思う。亀次郎は94歳という長寿で、フミさんは100歳まで生きた。長寿のご夫婦である。二人の信念は、民衆が黙っていない、必ず米軍のいない、基地のない平和な沖縄が取り戻せるというものであった。いまだにそれを実現できていないことを日本の有権者のひとりとして恥ずかしく思う。
 前作に引き続いてナレーションを担当した山根基世の落ち着いた声はとても聞きやすい。男性のナレーションは前作の大杉漣も悪くなかったが、本作の役所広司のナレーションはとてもいい。声に力がある。日本の有権者はしっかりせいと、聞いているこちらが励まされるようであった。

耶馬英彦