配信開始日 2018年11月6日

「コーエン兄弟」バスターのバラード Editing Tell Usさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5コーエン兄弟

2018年12月1日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

知的

Netflix配給で作られたコーエン兄弟の最新作!

今回コーエン兄弟が手を出したのは、アンソロジー。

アンソロジー:詩文の美しいものを選び集めた本。

なぜコーエン兄弟がアンソロジーを採用したのかは定かではないが、6つの短編ストーリーを用いて、毎回コーエン兄弟がテーマとしてあげる、『善と悪』また『生と死』をブラックコメディのタッチで描き上げた作品です。

舞台を再び西部開拓の時代へと移し、当時の独特な個人の捉え方、そして今も変わらない集団の形をこの映画では映し出しています。

コーエン兄弟の映画は、コメディタッチで描かれることが多く、その中にアイロニーをつかって、ブラックにテーマを持ち出すのが特徴。本作でも、キャラクターが歌を歌い、バカバカしく大げさに演技をしたり、第4の壁を壊したり、動物たちを登場させたりと、エンターテインメントとして2時間を楽しませてくれました。

6つのショートストーリーのなかに、それぞれテーマというか、メッセージがあります。それぞれのストーリーが全く違うカラーパレットを使い、違う場所で展開されるということで、多様性や普遍性を強調しているのだが、そこに描かれるキャラクターの求めるものだったり大切にするもの、隠しているものはくしくも似通っていて、そこに橋渡しにされるテーマを笑いながらも、深く考えてしまうのがこの作品の意義でしょう。

詳しい解説なんかはそれぞれで考えたり、見た人どうしで話し合ったりするのも面白いと思いますね。コーエン兄弟の作品は、他の人の意見を聞くことで新しい見方だったり、意見だったりを感じ取ることができます。さらには、見る年代や住む環境によっても大きく見方が変わるから面白い。

それだけ多様な見方ができるのは、映画自体が多くのメッセージを投げかけているわけではありません。投げかけているメッセージはとても一直線でまっすぐなものです。しかしそれをメッセージというのかテーマというのか、観客が考える疑問点のように受け取ることができるので、多くの意見が生まれるのです。

そこにコーエン兄弟の監督としてのすごさがあります。コメディというのは映画を作る中でもとても難しいジャンルとされています。それは人を笑わせるということが難しいのと一緒ですね。そこにコーエン兄弟はブラックさを含み、風刺だったりアイロニーだったりを込めることで、もう一つの軸を打ち込んだ作品を作ります。

先ほどいったように、一つのテーマを面白く観客に伝えているのですが、そこには脚本家としてのコーエン兄弟、撮影監督との共有されたビジョンの濃さ、編集者としてのコーエン兄弟、そして監督として役者を生かすコーエン兄弟がいるからこそなし得る技です。

コーエン兄弟はヒッチコックのように、全てを頭の中で完成させる監督です。頭の中で完成しているものを緻密にスクリーンに映し出す、まさに芸術家気質な監督なので、その中身の濃さ、深さは一人では掘りきれないほどでしょう。フレームに映る全てのもの、聞こえる全ての音に意味があるのがコーエン兄弟の作品。

この作品、嫌いな人は嫌いかもしれません。しかし、コーエン兄弟の作品を見続けると、笑いどころもわかってくるし、なによりその芸術的部分に目を奪われ、人生をリニューアルすることができることはお約束します!

Editing Tell Us