劇場公開日 2019年12月13日

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「ミステリーかと思うと見間違う、別の主題を提示する辺境への旅」ある女優の不在 ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ミステリーかと思うと見間違う、別の主題を提示する辺境への旅

2020年10月5日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

若い女性から自殺を決意する連絡を受けた人気女優と監督が、女性の住む辺境の村に向かう。

イランの現状描き続けるジャファル・パナヒ監督が、今も根強い女性差別を静かに提示しつつ辺境の村の生活も感じさせるドキュメンタリーな雰囲気も漂う良作。

スマホ縦位置画面の動画から始まり、夜道を移動する狭い車内でのクローズアップと長回しなどで、やや説明的ではあるが、目的と謎が提示される。
車内と暗い夜道がコントラストとなり不穏な雰囲気を醸し出して、観客を引き込む演出と撮影は中々良い。ちなみに撮影は監督がフランスで入手したデジタルカメラらしいが、コンパクトな機動性を活かした画面構成と映画的な色調や陰影がキチンとあるルックで良い。

個人的に思うのは、二人が乗車するクルマが最近生産終了をアナウンスされた三菱パジェロで、外国映画でこれだけ長時間登場するのは珍しいと感じた。

ネタバレあり

映画自体はミステリー調ではあるが、謎解きやサスペンスに主眼が置かれているのではなくて、人気女優(現在)と往年の名女優(過去)と芸能を志す少女(未来)の三人が、イランの女性たちが絶えず受けている苦難の象徴として描き、静かに告発をしてくる。

道中に出会う人や村人は、素朴でありながら、何処か閉じており、行方不明の少女に冷淡な反応で、村の中で娘が孤立していることが分かる。

彼女を探しに訪れた人気女優も、一見丁重な姿勢で迎い入れられるが、深いところ変わらない。実名で本人演じるベーナーズ・ジャファリの彫りの深い表情と真っ赤な髪が印象的で存在感もあり素晴らしい。

往年の名女優は、イラン革命前の卑しい存在として村八分にされて息を殺すように住んでいるのは、根深い女性差別を感じさせ、何故か同時期に活躍した男優(実在した人)は、村人から男の象徴としてリスペクトされているのに。

現在・過去・未来を象徴する女性三人が集う場面や娘の親への説得場面は、省略されており解り易い回答を観客に提示せず想像させるなどの演出のメリハリもうまい。

イラン映画は、殆ど観た事が無いと記憶しているが、中々知ることのないイランの辺境での生活やそれぞれの人達の立場を、分かりやすく興味を持続させながら堅実に描かれた映画でジャファル・パナヒ監督作品をもっと観たと思わせる良作。

ミラーズ