劇場公開日 2018年6月23日

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「釣り嫌いのオフィーリア」女と男の観覧車 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0釣り嫌いのオフィーリア

2020年5月25日
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「この映画は(古のハリウッド映画への)オマージュではない」ハリウッド嫌いで有名なウディ・アレンがその楔から解かれ、amazonの出資(現在は最新作の全米公開をめぐって係争中とか)を得て初めて製作された作品であることに注意しなければならない。なにせ本作でウディがオマージュを捧げたのは、ハリウッド永遠のライバル=ブロードウェイの名戯曲作家たちだからである。

主人公のジニー(ケイト・ウィンスレッド)は演劇女優を志した過去があり、釣りと野球にしか興味のない粗野な亭主ハンプティ(ジム・ベルーシ)との味気ない生活にはうんざりしている。持病の偏頭痛はひどくなる一方、最近は薬も効かなくなっている。コニーアイランドの砂浜で知り合った演劇に造詣の深い監視員ミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)とそのまま不倫関係に。そこにハンプティの前妻の娘キャロライナが何やら訳ありで出戻ってきて…

その演技力には定評のあるケイトをあてがきしたというシナリオは、シェイクスピアからユージン・オニールまで、かのレジェンドたちがしたためた戯曲作品に登場する人物になりかわり、精神不安定なジニー母さんが“WONDER WHEEL”の原色ライトを浴びながら七変化する様を、ケイト・ウィンスレッドが見事に演じ分けるという非常に凝った内容になっている。

学校にもいかずコニーアイランドの映画館に入り浸り、疑惑の火消し?ならぬ火着けに明け暮れるジニーの連れ子リッチーは、おそらく幼小期のウディ・アレンそのままの姿だろう。そんなリッチーが学校で問題を起こすたびに夫ハンプティに八つ当たりするジニー。「これは本来の私の役じゃないの」つまりこのかりそめの夫婦生活もジニーにとっては演じている役の一つにすぎないのである。

過去に女優を志したジニーはアントン・チェーホフ作『かもめ』のニーナを、粗野な夫とそりがあわず別の男にはしる精神不安定な女はテネシー・ウィリアムス作『欲望という名の電車』のブランチを彷彿とさせる。ついには酒に溺れ現実逃避を試み茫然自失するジニーはユージン・オニール作『氷人来る』からの引用だろうか。恋人に別れを告げられる純白ドレスの耳元に花をさした狂女はいわずとしれた『ハムレット』の(釣り嫌い=水が怖い)オフィーリア…

永年ハリウッドに尽くしてきたにも関わらず、#Metoo運動の標的にされ、事実上映画界からも放逐されたウディ・アレンの恨み節が炸裂した1本なのである。

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かなり悪いオヤジ