劇場公開日 2018年5月26日

  • 予告編を見る

「アルマが毒キノコ。」ファントム・スレッド きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0アルマが毒キノコ。

2019年9月11日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

男目線と、(たぶん) 女目線と、半々に均衡のとれたシナリオ運びだったと思います。
観賞者男女それぞれ、共感納得する部分が多くてこのハウスの物語に呑まれて行ったのではないでしょうか。

カメラと光が秀逸だと思ったら、フィルム撮影だそうです!発泡酒を飲み続けていて久しぶりに瓶ビールのラガーを味わった時の「これだよ、これ!」感です。
音楽もロケもgood。衣装の美しさは言わずもがなですが助演の姉シリルの出で立ちの美しいこと。

【ストーリー】
オートクチュールに全人生をささげていたレイノルズは、田舎町のウェイトレス アルマをスカウトして連れて帰るんですが、このボディ (トルソー) が何故かそのうち喋り出すわけですよ。
「私は何時間でも誰よりも長く立っていられる」と心に呟き、“仮縫いのボディ”でいたはずのこのウェイトレスが沈黙の禁を破るのです。

で、そんなつもりではなかったレイノルズの慌てぶりが可笑しいのです。想定外の展開への混乱ぶりが。

つまり、町娘アルマが恋人となり、夫の仕事の擁護者でありつつ批評家の地位を固め、ついには彼女は妻を経て母となる。
初めて体験する女性とのお付き合いに苦戦惨憺するレイノルズを応援したくなります。
一日の計画を立て、創作のための霊感を整えるあの朝食のシーンに“粗野な闖入者”が現れて静寂を乱す。あれには爆笑でした。

僕自身の体験ですが ―
「この僕の前に居る人は一体全体なにものなのだ?!」と妻の顔をまじまじと見たのは僕が「いま書き物しているから5分だけ待っててねー」と言ったのにその女性は15秒しか黙っておれなかった衝撃の事件からでした。
男にとって女は厄介。女は仕事の邪魔者です。
女はミステリーです。揺さぶりをかけてくる。そして思いもよらなかった新しい世界を男に与えます。それが女。

すったもんだの結末には、レイノルズはバターたっぷりの毒キノコのオムレツを破顔の笑いで飲み下しましたね。あんなに頑なに手料理を拒絶していたはずが 恋はもーもくですわ。
毒キノコとわかっていて彼は“妻アルマの存在を食べた”のです。

引っ掻きまわしてくれたアルマの毒気を受け容れて人生の脱線を選んでしまったレイノルズの転戦・退却に、同性としては称賛の拍手を送りたいと思います。
こっそり言いますが年上の彼レイノルズは、負けた振りをしていてパパ活の小娘アルマに克ったのですよ。

DVDを見返してみるとこの映画は純愛物語であったことが判ります。
旧約聖書の箴言にこんなくだりがあります
「世の中に不思議なものが3つ、いや4つある~男の女に出会う道」。
自己チューの堅物だったのに恋に陥ちた瞬間のレイノルズは、まるでリチャードギアのようにはにかんだ少年のような表情を見せていました。
「人を好きになるっていい事なんだよ」
「人を好きになったって構わないんだよ」と、
この作品は教えてくれます。

【さいごに】
ダニエル・デイ=ルイスはこの出演で引退と決めていたそうですね。
出演作を絞り脚本を吟味する孤高のアカデミー主演男優が、定席であった主演の地位をウェイトレスに喰われるという“お粗末な”幕引き役を敢えて自分に選んだのは何故か。

ガンジーとしてインドを救い、リンカーンとしてアメリカを救ったDDL は最後に乳母車を押す家庭人として、そして喜劇俳優として一人の女を愛して救い上げた。そんな市井の男になって平凡なラストシーンを自分に贈ってみたかったのかもしれません。

(特典映像の”家庭人になったレイノルズ“のカットは微笑ましいんですよ)。

3回観賞。

きりん
KEIさんのコメント
2021年7月25日

きりんさん
共感有難うございます。私には中々わかりにくい部分があったのですが、きりんさんのレビュー読んで、なるほど!男性目線と女性目線のシナリオ運びというのに納得してしまいました。

KEI
NOBUさんのコメント
2021年6月24日

今晩は。
 お久しぶりです。
 ”特典映像の”家庭人になったレイノルズ“のカットは微笑ましいんですよ”
 久方振りに今作のレビューを再読して、このコメントがとても気になります・・。
 もしや、レイノルズはアルマの支配下にあり、嬉々としてルーチンワークのように、家事をせっせとこなしているのでしょうか・・。ダニエル・デイ=ルイス、そういう役も似合いそうだなあ・・、とシナプスが切れつつある脳内で映像をイメージしてしまいました・・。これからも、宜しくお願いいたします。

NOBU
たなかなかなかさんのコメント
2021年6月24日

きりんさん、コメントありがとうございます😊

確かに、本作は女性に束縛される男性を描いた作品だったように思えます。

レイノルズの童貞性は置いておくとして(笑)、作中で一切の性描写がないのは気になりました。考察すべきポイントな気がします…🤔

たなかなかなか