劇場公開日 2018年11月30日

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「古き良き時代の『最後の家族』かもしれない、という恐怖感」かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0古き良き時代の『最後の家族』かもしれない、という恐怖感

2019年1月3日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

ひとつの物語としての完成度、3世代それぞれの登場人物の心象を素直に受け入れることのできる共感性、という点で文句のつけようがありません。
ただ、皮肉なことに現代日本の少子化、地方の過疎化、その先に来るであろう状況などを考えると、線香花火の最後の輝きのような、古き良き日本の最後の家族を見ているかのような寂しさを覚えてしまいます。

血縁の有無とは関係なく、一定数の子どもたちがいて、親世代の人たちが働き納税することで社会的なシステムとして教育機会や医療制度が整備され、子ども世代の就労を後押しし、一部の社会的弱者のための支援制度(実際の運用にあたっての不具合は多々あることは否定できなくても)が整う。そして、祖父母世代は積み重ねてきた知見でアドバイス、時には相応の経済的支援で子どもを支える親世代をサポートする。

何度も言いますが、個別の血縁関係でなく、社会の構図として、『見守りたい子どもたちがいる、そのために頑張れる親たちがいる、それを支える祖父母世代がいる』そんな社会は個々人の感覚としては程度に差はあっても、自分も誰かの役に立ってるんだ、と思うことが可能な(それは幸福感と呼ぶことも出来る)そこそこ理想的な社会です。
そして、つい最近まで、幸福感などという自覚のない人の方が多いにせよ、他の多くの国に比べれば日本ではかなりの段階まで実現していたのです(義務教育、皆保険、皆年金などはその成果のひとつの表れだと思います)。

子どもたちや働き盛りの人たちが少なくなっていく過疎化した村では、制度が崩壊するより先に、見守りたい、支えたいと思う人たちがいつのまにか消滅し、知らないうちに幸福感が失われていくことが現実化しつつある。

満ち足りたような優しい映画なのに、余韻を噛み締めていると恐怖感に変わっていく不思議な体験でした。

グレシャムの法則