劇場公開日 2018年4月21日

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「今年前半に観るべき傑作のひとつ」タクシー運転手 約束は海を越えて Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5今年前半に観るべき傑作のひとつ

2018年5月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

知的

個人的に今年1月~4月に映画館で観た作品は約100本あるが、本作はナンバーワン級である。

封切りの"新宿シネマート"は、マイナーアニメや韓国映画を主に上映している、新宿三丁目のジミな箱だが、その"シネマート"が超満員になっている。なんとも不思議な感覚であり、あまりの集客に、5月12日からは松竹系メジャー館である、"新宿ピカデリー"でも拡大公開が決まった。

シネマートらしく、もちろん韓国映画である。1980年5月に韓国南部の光州市で実際に起きた"光州事件"を描いているのだが、その描き方が変わっている。当時、事件を現場取材して世界に伝えたドイツ人記者と、その記者を乗客としてソウルから光州の現場まで送り届けたタクシー運転手の実話を基に、熱いヒューマンドラマに仕上げている。

いまから40年前の"光州事件"のきっかけは、全斗煥らのクーデターと金大中らの逮捕で、抗議活動を起こした学生デモから、約20万人の市民デモに発展した。それを政府軍が武力制圧し、多数の死傷者が出た事件である。

戒厳令下の政府軍は、通信規制や道路封鎖のみならず、テレビ局の封鎖や報道管制などで、光州事件自体をわい曲して伝えていた。

主人公のタクシー運転手マンソプは、ソウル市民であるため、光州事件の真実などそんな知るよしもない。ソウル市と光州市を往復するだけで、法外な謝礼金(10万ウォン)をもらえる送迎ドライブにのぞむ。

不純な動機で、危険な仕事を請け負うことになったタクシー運転手を韓国を代表するベテラン俳優、ソン・ガンホ。また外国人記者を「戦場のピアニスト」(2002)のトーマス・クレッチマンが演じている。

意外にも前半までは明るいコメディタッチで進み、やがて事態が明らかになるにつれ、深刻なシチュエーションが緊張感を高めて、サスペンス度合を高めていく。歴史的事件を扱った史実映画でありながら、再構成と創作されたコメディとサスペンス、アクションとヒューマンドラマを盛り込んだバランスのよい傑作だ。

シネマートのおかげで、ふだんから多くの韓国映画と触れ合うことができるが、多くの作品が描く韓国社会は、先輩絶対主義のデメリットばかりの儒教感覚、腐った政治家や財閥一家、金にまみれた一部のセレブ、他人事ながら病んだ環境に同情するばかり。

(2018/5/5/シネマート新宿/シネスコ/字幕翻訳:神田外語大学字幕制作チーム/字幕監修:本田恵子)

Naguy