劇場公開日 2018年4月6日

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「女の心の深奥に迫りたい気持ち」娼年 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5女の心の深奥に迫りたい気持ち

2018年5月19日
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鑑賞方法:映画館

笑える

幸せ

 平日のレイトショーだというのに、渋谷の映画館は若い女性客で一杯だった。メンズデーなのでオッサンばかりだろうと予想していたのが見事に裏切られた格好である。一昔前なら女性が観賞することが憚られるような映画だが、ケラケラと笑いながら見ている彼女たちに時代を感じてしまう。それにしても松坂桃李はこれほど女性に人気なのか。それとも女性が強くなったのか。

 性交シーンで女性群の笑いが起きていたから、エロスというよりも性交のプロフェッショナルとしての象徴的なシーンを出したかったのだろう。本当にプロフェッショナルのテクニックを表現しようとすれば、カーマスートラにあるようなタントラセックス、スローセックスのシーンを描くのが王道だろうが、それでは普通のポルノ映画になってしまう。そうならないように敢えてAVみたいな動作を入れたのだと思う。パロディの意図も感じられる。

 性交に種の保存ではなく精神的な満足を求めるのは人間だけではなかろうか。ギリシアの昔から、支配階級の男性の欲望を満たすための娼婦または男娼が存在したと言われている。しかし女性には妊娠の恐れがあるから、たとえ金持ちで旺盛な性欲があったとしても、相手構わず性交する訳にはいかない。
 長い年月を経てコンドームやピルなどの避妊具が開発されたことで、女性の主体的な性行動の自由が生まれた。フリーセックスという言葉は女性のために誕生した言葉なのだ。そして時代は流れ、女性たちは経済力を得て、かつての男性たちがしていたように男を買う、というのがこの映画の下地である。女性たちにも男性と同じような多様な性欲があると仮定し、様々な性交シーンを積み重ねてこの作品が出来た。
 しかしこの映画は原作も監督も男性である。女性の性の奥深い部分は分かりようがない。「黒の舟歌」の歌詞のように、男と女の間には深くて暗い河があるのだ。少年は少女の心の深奥に迫ろうと舟を出すが、その願いが叶うことはない。大人になって自分なりの女性との付き合い方を会得すると、もはや女性の心の深奥に迫ろうとはしなくなる。しかし心のどこかにはまだそういう気持ちがあり、女性を本質的に理解することでこの世界の真実を垣間見たい願望は捨て切れない。この作品はそういう意味で男の心の中にいる少年を描いた作品で、だからタイトルも「しょうねん」なのである。

耶馬英彦