劇場公開日 2018年5月18日

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「肩の力が抜ける佳作」のみとり侍 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5肩の力が抜ける佳作

2018年5月21日
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鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

 数日前に松坂桃李の「娼年」を観たばかりで、あちらは現代版の男娼であったが、こちらは時代劇だ。寺島しのぶはゴールデンウィークに舞台「ヘッダ・ガブラー」を観た後に映画「オー・ルーシー!」を観た。特になんだということはないが、巡り合わせを感じてしまう。

 本作品は時代劇コメディである。江戸時代ならではの武士のヒエラルキー社会のパラダイムに翻弄される主人公は、企業の論理や人間関係、派閥などに左右される現代の真面目なサラリーマンに通じるものがあって、どこか物悲しい。
 阿部寛はコミカルな俳優の面目躍如というところだが、寺島しのぶはどちらかというと悲惨な現実を生きる女性をシリアスに演じるイメージがあったので、本作の役は意外だった。やっぱり演技は大変に上手で、主人公に向かって「下手くそ!」と言うとき、その言葉が男を傷つける言葉であることが分かっていて、しかし言わずにいられず、そして言ったとたんに後悔するという、女の優しさを目一杯表現するシーンには感服した。凄い女優である。

 ストーリーはほぼ一本道で、最後に人情噺的などんでん返しがあるという、割と王道の時代劇である。ホロっと来る人もいるだろう。大竹しのぶに風間杜夫、豊川悦司、斎藤工、松重豊と豪華な俳優陣が脇を固めていて、とても贅沢をしたような気分になった。観ると肩の力が抜ける佳作である。

耶馬英彦