犬猿 : 映画評論・批評

メニュー

犬猿

劇場公開日 2018年2月10日
2018年2月6日更新 2018年2月10日よりテアトル新宿ほかにてロードショー

家族への愛情もネガティブな感情もまとめて肯定する視線に誠実さを感じる

吉田恵輔のことはもう“天才”としか言いようがない。何のかって、人間の卑小さを飛翔させる天才であり……いや、なんだかうまいこと言おうとしたみたいになった。とにかくみみっちい自分自身によって追い詰められる小市民の自業自得を、あふれんばかりの共感と笑い、そしてひと匙の悪意をまぶして描かせれば無双状態の名監督である。

吉田監督(と、コンビを組んでいた故・仁志原了氏)はオリジナル脚本で数々の傑作を生みだしてきたが、新作「犬猿」はオリジナル企画としては5年ぶり。その間に「銀の匙 Silver Spoon」「ヒメアノ~ル」と2本の原作物で咀嚼能力の高さを見せつけてはいるが、ファンとして誰かに勧める際にはまず吉田ワールドがさく裂するオリジナルをチョイスしたいもの。

そして満を持して公開される「犬猿」では、5年という久しぶり感をカケラも感じさせず、さらっと名作をものにしてみせているんだから天才とはなんと小憎たらしい生き物か。今回、器の小ささをこれでもかと開陳させられるのはふた組の男女。男女といっても、兄弟と姉妹という関係性にまつわる物語だ。

画像1

世の中には仲が良い兄弟姉妹もいるだろうが、多くは目の上のたんこぶだったり、コンプレックスの対象だったり、面倒をかけてくる厄介者だったりはしないだろうか。兄弟も姉妹も人と人とが認め合って結ばれる関係ではない。強制的にあてがわれる、友人でもなければ先輩や後輩でもない近しい間柄。それゆえの感情のもつれや面倒くささをこれでもかとネタにしているのだ。

犬猿」というタイトルも、窪田正孝新井浩文、ニッチェの江上敬子筧美和子が演じる4人の主人公がそれぞれにタイプが真逆で反りの合わない兄弟姉妹であることに由来している。

地道でおとなしい営業マンの弟と、ムショ帰りのチンピラでがさつな兄。家業の印刷工場を切り盛りする姉と、姉の下で働く事務員だがタレント事務所にも所属する妹。互いへの妬みや嫉みが暴走してとんでもない事態を引き起こす――と雑な説明をしてみたが、映画ならではの荒唐無稽さと半径2キロメートルくらいの身の周りでありそうなリアリティのさじ加減が本当に上手い。

また映画が家族の愛憎を描く場合に「やっぱり家族は大切」みたいな結論に着地させがちなところも吉田監督は巧妙に回避する。家族への愛情もネガティブな感情もまとめて肯定する(同時にちゃかしてもいるが)視線に、今回も監督の誠実さを感じてしまうのだ。

村山章

関連コンテンツ

インタビュー

窪田正孝VS新井浩文×江上敬子VS筧美和子 吉田恵輔監督が描く兄弟姉妹の愛憎
インタビュー

「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督が4年ぶりにオリジナル脚本で撮り上げた新作「犬猿」が、2月10日から公開される。見た目も性格も正反対な兄弟と姉妹に扮し、劇中で火花を散らしたのは窪田正孝、新井浩文、江上敬子(ニッチェ)、筧美和子。4人は監...インタビュー

関連ニュース

関連ニュース

フォトギャラリー

DVD・ブルーレイ

犬猿[Blu-ray/ブルーレイ] 犬猿[DVD] アンナチュラル Blu-ray BOX[Blu-ray/ブルーレイ] アンナチュラル DVD-BOX[DVD]
犬猿[Blu-ray/ブルーレイ] 犬猿[DVD] アンナチュラル Blu-ray BOX[Blu-ray/ブルーレイ] アンナチュラル DVD-BOX[DVD]
発売日:2018年8月8日 最安価格: ¥4,235 発売日:2018年8月8日 最安価格: ¥3,036 発売日:2018年7月11日 最安価格: ¥19,180 発売日:2018年7月11日 最安価格: ¥15,251
Powered by 価格.com

映画レビュー

平均評価
3.8 3.8 (全66件)
  • 怪優新井浩文とニッチェ江上の存在感 良くこれだけ濃いメンツを集めたなと思うキャスティング。特に新井浩文の狂気に近い(北野映画っぽい)暴力性や人間の寂しさと、ニッチェ江上の頭が良いからこそモテない事実を深刻に捉える深さの描写が良かっ... ...続きを読む

    yh yhさん  2018年5月19日 03:41  評価:4.5
    このレビューに共感した/0人
  • 嫌煙 僕には僕の陰の部分を抽出したような弟と、陽の部分を抽出したような妹がいて、多分二人はこの映画の二組に似たような関係なんじゃないかなと思いながら身につまされる気持ちで見てました。 最後はバイオレン... ...続きを読む

    ヨッシー ヨッシーさん  2018年5月4日 21:37  評価:5.0
    このレビューに共感した/0人
  • 笑えない ネタバレ! ...続きを読む

    U-3153 U-3153さん  2018年4月6日 23:22  評価:4.0
    このレビューに共感した/0人
  • すべての映画レビュー
  • 映画レビューを書く
このページの先頭へ

最近チェックした履歴

映画の検索履歴

他の映画を探す

映画館の検索履歴

他の映画館を探す

特別企画

新作映画評論

  • レディ・バード レディ・バード “インディ映画の女王”の青春映画は、フレッシュでモダンな感覚がきらめく
  • ゲティ家の身代金 ゲティ家の身代金 巨匠リドリー・スコットが暴く、エイリアンよりも禍々しき大富豪の実像
  • 海を駆ける 海を駆ける 清々しい希望と、静かに迫る不吉で恐ろしい何か。深田監督の集大成的な作品
新作映画評論の一覧を見る
Jobnavi