劇場公開日 2018年8月24日

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検察側の罪人 : インタビュー

2018年8月6日更新
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二宮和也が語る「木村拓哉」という存在 初共演「検察側の罪人」で感じた超然たる“人間力”

一方で木村拓哉に対峙した二宮和也は、胸のうちにどんな感情を秘めていたのだろうか。くずおれそうになるほどの重圧か、たぎる意欲を抑えられぬ挑戦か、あるいはスターたるオーラへの敬意か。二宮自身の言葉をたどり、「検察側の罪人」の撮影現場を覗いていこう。(取材/文・編集部)

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意外にも、木村とは初共演となった二宮。事務所の先輩であり、それ以前に役者としても人間としても尊敬する彼との共演に、二宮はただ「楽しかった。木村さんは大変だったかもしれないですけど(笑)、僕は本当に楽しいだけでした」と瞳を輝かせた。現場を振り返る際は常に口角を上げ、ワクワクがにじみ出るかのようなほほ笑みを浮かべる姿からは、今作が“人間・二宮和也”に与えたものの大きさをうかがい知れる。

二宮「事務所の先輩でもありますので、厳しいところは人よりも厳しいですし、優しいところは人よりも優しい、そういう特殊な関係ではあります。ただ今回、木村さんがしてくれることに対して、僕はずっと甘えていました。つまり、木村さんはすごく環境を整えてくださった。『長く役者をやっているんだから、ニノのやり方がある』と尊重してもらえて、『でき得る限り、こっちで整える』とも言っていただけました」

座長・木村がつくり出したステージに二宮が飛び込み、存分にエネルギーを衝突させ合う……。今作を貫く2人の死闘の圧力は、それぞれの力量だけでなく、先輩・後輩という信頼関係によるシナジーの賜物だった。「木村さんは怒らないし、感情が見えないところがある(笑)。常に何かを考えていて、それは現場で起こっている問題の、その先を考えている。今発生した問題が解決した後に、どう展開していくかということ。その結果、僕だけじゃなく、みんなも演じやすい環境が整っていくんです」と、二宮は木村の超然とした調整力を説明する。

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また予告編でも象徴的に挿入された、最上(木村)と沖野(二宮)による論争。「真実を解明することはどうでもいいんですか」「検事でいる意味がない」と、互いの“信念”という抜群の切れ味を誇る剣を、相手の喉元に突きつけ合う壮絶な舌戦が繰り広げられる。今作最大の見せ場とも言える同シーンだが、挑むにあたり、2人の間に“芝居のプラン”に関する会話はなかった。それは、前述の「あなたのやり方がある」という尊重にもとづく、ごく自然なことだった。

しかも本番はテイクを重ねることなく、一発OKで終了したという。「基本的には、どのシーンもほぼほぼ一発OKだった、という印象です。もっと言うと、カメラテストもそこまでやっていないんです。段取りで確認したらすぐ撮影していたので、1日の撮影終了が非常に早く、次の日のことをちゃんと考えられる時間を、原田眞人監督につくっていただきました。だから、現場でみんなが『せーの』で演じたときに、初速が全然違ったんですよね。シーンを一緒に演じてくれる方々に、僕から『ドン!』とぶつける。そして出していただいた返答に、僕が真正面からぶつかるときもあれば、受け流すときもある。そういったバランスで演じていました」と、まるでジャズセッションのような、有機的な芝居の連鎖を述懐する。

観客の心に大渦を生じさせるシークエンスは無数にあるが、なかでももうひとつ、沖野と殺人容疑をかけられた松倉(酒向芳)の聴取シーンは白眉だ。対面した当初、穏やかな口調で言質を取ろうと攻め込むが、最上から「怒らせろ」という遠隔指示を受けると、聴取は徐々にエスカレート。松倉の希望で録音と録画を停止し、おぞましい告白を聞かされた後、沖野は満腔の力を込めて罵詈雑言を浴びせかけ、目の前に座る“モンスター”をいたぶっていく。酒向の怪演も見事だが、タガが外れたかのような沖野の変貌ぶりを、二宮が静から動へと急激なスイッチを入れ体現している。

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二宮「狂気ですよね。あのシーンは大変でした……。ずっと怒っていなければいけなし、罵倒しなければいけない。僕はどちらかと言うと、円滑に生きたいと思っている人間なので、ああいうことは一切しないです(笑)。検事の先生が(監修で)いらっしゃって、『実際にここまでやっていいんですか?』と聞いたら、『ここまでやったらクビです』と言われました(笑)。しかし、これは作品のスパイスとして必要だから、映画的な嘘として徹底して演じていきました。難しいと思っていたのは、相手が動かないところ。だから僕から仕掛けていかなければいけない。相手が動くのであれば、動いた先に椅子を蹴ったり、ものを投げたりできるんだけど、今回は『どうしよ……』みたいな(笑)」

そして二宮が今作に参加するにあたり、心に決めたことは「最低限、足を引っ張らない」ということ。特別な気負いはないに等しく、こうしてインタビューに応じる際も、どこまでも自然体だ。撮影現場を、改めて「演じていて楽しくなっちゃったりすると、『ちょっとやってみよう』となるんです。どうやっても、何をやっても、たとえ自分がフラフラしていても、すくってくれる相手に木村さんがいて、まとめてくれる監督がいてくれた」と振り返り、「僕は自由にやっていましたし、木村さんとのラストシーンは、特に楽しかったですね」と破顔した。

「自由」という言葉は、なにも「滅茶苦茶に振る舞う」という意味ではない。自身の持つありったけを、肩の力を抜きながら自然に放出することが、二宮の言う自由なのだ。沖野&松倉の聴取シーンについて、こんなエピソードも飛び出した。「前日に、木村さんが『明日、やりたいようにめちゃくちゃにやってきていいよ』とメールをくれたんです。当日も『楽しみにしてるね』と。自分が稼働していない日のスケジュールも把握されていて、多分僕だけじゃなく、やっしー(八嶋智人)や松重(豊)さんにも『お願いします』とメールしていらっしゃるはず。現場にいなくても『よし、ちゃんとやらなきゃな』と常に思わせてくれるんです」。

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二宮は2年ほど前から、「平成の大スターである木村拓哉と、平成のうちに共演したい」と願ってやまなかった。夢が現実となった今、喜びはひとしおだろう。だが「新しい元号になったときに、飲みながら後輩に『平成のうちに木村拓哉と共演した』と自慢したい」という慎ましい発言に、彼の真骨頂を見たように思う。

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