劇場公開日 2018年6月8日

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「「子犬のワルツ」でこんなに泣けるなんて・・・」羊と鋼の森 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「子犬のワルツ」でこんなに泣けるなんて・・・

2019年4月17日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

泣ける

知的

 こつこつと歩んでいく調律師人生を描いたものだから、音楽やピアノの音色そのものが美しかったけど、全体としてはそこまで感動できる物語じゃない。それでも「森の木々の揺れる音」だとか「いい羊がいい音を作る」といった印象に残る言葉もあり、また、原民喜の詩なども素敵だった。極めつけは佐倉姉妹の姉の「ピアノで食べていこうなんて思ってない。ピアノを食べて生きていくんだよ」という言葉だった。多分、原作の小説のほうが言葉の魔術を感じるのだろうけど。

 今までは調律師の仕事を甘く見ていた。キーを440Hzに合わせる調律だけだと思っていたのに、整調、整音、調律という三大要素の整調ですら24ヵ所の調整×88鍵という直しが必要というから驚きだ。フェルトにちょこっと刺すだけでも音が変わるというのだから、素人の耳ではわかんないんだろうな。そんなピアノも弾けない主人公がよくぞ調律の道を目指したもんだ。そこが山や森というポイントなんだろうけど。

 最後の結婚披露宴のシーンには、途中コンサートホールでの調律を依頼された微妙な脚の位置の調整とか、人が入ったときのホールの音響の変化とか、楽しませてくれた。ただ上白石姉妹のエピソードがそれほどでもなかったのは残念。「ピアノを食べる」という台詞だけだったかもしれません。それよりも中盤のエピソードで外村が初めてまかされた新規の客がよかった。無口な客(森永悠希)の散らかった家にあるアップライトのピアノが10年以上放置され、年末大掃除のごとく丁寧に調律を仕上げ、客が弾いた曲が「子犬のワルツ」。両親、そして飼い犬まで亡くしたその客はずっと首輪を握りしめたまま。状況は説明されないものの、悲しみにくれた少年の演奏はたどたどしい指のタッチによって感情そのものが伝わってくるのだ。もう、このエピソードだけで大満足だった。

kossy