劇場公開日 2017年8月26日

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「新しい三成と家康の知的攻防戦」関ヶ原 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0新しい三成と家康の知的攻防戦

2022年4月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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知的

本作は、司馬遼太郎の傑作長編小説が原作であり、戦国時代の関ケ原の戦いを壮大なスケールで描いた、本格派・大型時代劇である。残念ながら、原作のように、緻密で完成度の高い作品ではない。粗削りで、突っ込み処も沢山ある。しかし、従来とは違う石田三成像と徳川家康像が奏功し、見応えのある作品になっている。

本作の主人公は、戦国武将・石田三成(岡田准一)である。豊臣秀吉(滝藤賢一)亡き後、豊臣家は求心力を失い、三成と、福島正則、加藤清正など、豊臣恩顧の武将達は溝を深めていく。そこに、徳川家康(役所広司)は巧みに付け込み、三成は孤立を深めていく。そして、三成と家康の関係は決定的となり、ついに二人は、関ケ原で、東軍、西軍に分かれて、雌雄を決することになる。西軍は、宇喜田秀家、大谷刑部らの活躍で奮戦するが、ある武将の裏切りによって、戦況は一気に東軍に傾き、僅か6時間で、西軍は敗北する・・・。

ハイライトである合戦シーンは、人馬ともに数が多く、臨場感、迫力ともに申し分ないが、その分、敵味方の区別がつき難くなってしまったのは残念。原作は3部作の長編小説なので、そのまま素直に映像化すれば、6時間くらいかかるのではと懸念していたが、定評のある原田監督得意の構成力で、複雑な人間関係、時代背景を2時間半に巧くまとめている。三成、家康にフォーカスした群像劇に仕上げている。その分、ヒューマン・ドラマの要素は薄くなり、駆け足になった感はあるものの、寄り道をしないスピード感あるストーリー展開になっている。特に、本作は、関ケ原の戦いに至るまでの過程に時間を割いて、時々刻々変化する状況の中で、三成と家康の知的攻防戦を克明に描いている。二人の攻防は現代のビジネス競争、政治抗争に通じるものがあり、リアルで面白い。

三成、家康のイメージは、従来とは異なっている。従来にも増して対照的になっている。
三成は、官僚派というよりは武闘派色が強くなっている。その方が、主役である岡田准一のキャラに合っていて、愚直さ、不器用さが強くなり、念の人というイメージになっている。一方、徳川家康も、演じる役所広司のキャラに合った、狡猾ではあるが、人たらし色も加えた百戦錬磨な狸爺というイメージになって、底知れなさが増している。役所広司の役作りが出色。

三成、家康に加え、平岳大演じる島右近の存在感が効いている。冒頭で、三成に家来にと請われたとき、右近は、秀吉政権末期の豊臣家の将来を憂い、豊臣時代が長くないことを示唆する。それでもなお、彼は、三成の純粋すぎる人柄に惚れ込み家来となる。そして、三成のために獅子奮迅の活躍をしていく。人は、利害、損得では動かない。理屈では動かない。意気に感じて、感情で動くことを体現している。平岳大は、顔立ち、風貌、佇まい、どれを取って申し分ない。我々がイメージしている武士のイメージそのものである。

最近は、面白い試みではあるが、従来とは異なる時代劇が多かったが、本作は、現代感覚は取り入れているものの従来の時代劇に回帰している。威風堂々とした時代劇の醍醐味を久々に堪能できる作品である。

みかずき