劇場公開日 2017年10月27日

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「傑作の名を汚さぬ正統派続編」ブレードランナー 2049 ヨックモックさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5傑作の名を汚さぬ正統派続編

2018年1月8日
PCから投稿

もはや伝説化した偉大すぎる傑作の続編が作られると聞いた時、正直期待よりも不安が上回った。停滞感の否めないハリウッドが連発する往年のSFファンに金を落とさせるだけのその場凌ぎの企画は他にも枚挙に暇がない。本作もそうなのではないかと思ったのだ。ましてやブレードランナーが大好きな自分にとって不快な作品にだけはなってくれるなよ、という感情が何より先行していたのだ。
結論から言うと、それは全くの杞憂だった。前作の表面だけをなぞったファンメイド作品でも信者のためのサービス映像でもなく、そのエッセンスを抽出し現代風に再構成した文句なしの“ブレードランナーの続編”だった。

美術面。
もはや時間軸的にもテクノロジー的にも、ブレードランナーの世界に一部は追いつき追い越してしまった現代。どのようなカッコイイ未来世界をデザインしているのかが一番楽しみなところだった。
今更前作の二次創作のようなサイバーパンクを提示されても、それはファンに媚びた歯ごたえのない偽物感が否めないし、だからといってバリバリのオリジナリティを押し出した新しいガジェットデザインを期待していたかというとそうでもない。あの最高にイカしたサイバーパンク世界を現代風に絶妙にチューンしてアップデートしたような世界を自分は期待していたのだ。
その点はまったく裏切られることはなかった。高さがぴったり合った無数の高層ビル、無駄なホログラム広告、多種多様な服装、無駄に沢山あるウイスキー、空飛ぶ車。前作に比べて埃っぽさやガヤガヤ感が薄くなった点は気がかりだったが、でも生活感が削がれたというほどでもなかった。
ドローン大活躍!
都市中心部以外の造形はフォールアウトで見たことある景色が多いなぁ…。

シナリオはまさしく“ブレードランナーの続編”としては満点で「いつか近い未来に問われるであろう生命倫理」を小気味よいテンポのクライムサスペンスとして誰にでもわかりやすいように昇華している。登場人物たちの苦悩や祈りが本当に生々しい。

ただ個人的にひどく気に入らなかったのはエンディングだ。それまで秀作として観れていたのに、ラスト10分で一気に作品としての価値を損なったと感じた。生命倫理という明確な確たる正解のない問いをする作品だからこそ、前作がそうであるように白黒ハッキリとつける終わり方は避けるべきだと思うし、そこにありがちな善悪構造を作ってはならないはずだ。エンディングまでは(レプリカントのメーカーが割とわかりやすい悪役として描かれがちではあったものの)淡々とグレーな世界を苦悩と迷いをもって描かれていたのに、最後はひどく平凡でつまらない
『自分の命を犠牲にしてまでデッカードを助けた主人公と、何故か実の娘ということになっていた記憶創造者の娘と会ってめでたしめでたしの美談』
として閉めたことには強烈な違和感と勿体なさしか感じられない。
時には多少強引なハッピーエンドが似合う作品もあるかもしれないが、ブレードランナーにはまったくもって親和性がない。本当に台無しにされた心地である。

謎に思った部分もある。
本来人間を欺かないはずのジョーがなぜ上司を裏切ったのか。
多少の伏線らしき演出はあったものの、記憶想像者などというレプリカントメーカーの外注先がレプリカントの子供などという設定はあまりに強引で整合性に欠けるようにも感じる。
ジョーにデッカードの子供としての記憶を植え付けたのは誰がどんな目的があって行ったのか。(子供の存在の隠蔽の手段として色々なアンドロイドに施されているのか?)

楽しい作品だったはずなのに、良い思い出にはならなかった本作。作品はいかに終わるかが重要なのだと改めて感じた。

ホログラム嫁のジョイが欲しい。
自我を持ちつつあるAI嫁なんてなかなかおぞましい設定のはずなのだが…。

ヨックモック