劇場公開日 2016年7月25日

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「フランス映画らしい「粋」がムンムン」プロヴァンスの休日 モーパッサンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0フランス映画らしい「粋」がムンムン

2020年6月27日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

わけあり関係にある頑固爺と孫との交流というテーマは目新しくないし、結末もわかりきっているのだが、出だしからエンド・クレジットまで「粋」がむんむん匂い立ち、エニアグラム・タイプ4の僕としてはベタ惚れ状態だ。「粋」の仕掛けは、冒頭から爆発する。シンプルなアルペジオ1小節+1拍の前奏に続いて、「Hello darkness, my old friend...」 こ、これは「サウンド・オブ・サイレンス」ではないか。えっ?フランス映画なのに「サウンド・オブ・サイレンス」? しかも、今時の歌手によるカバーではなく、S&Gによるオリジナルっぽい。映画の冒頭でこの曲が流れたら、どうしたって「卒業」を思い出す。「卒業」の冒頭、空港の動く歩道に乗っているダスティン・ホフマンを追いながら、この曲が流れた。ぼくだけかも知れないが、「サウンド・オブ・サイレンス」には、これから始まることへの期待と不安をかき立てる「食前酒」のような効果がある。そのあとも、次から次へと60年代〜70年代のポップスの名曲が。前期高齢者を狙い撃ちしているとわかっても、これはもう撃たれるしかない。プロバンスの美しい風景や生活も魅力的だ。お祭りの音楽と踊りは、フランスの伝統舞踊のイメージとは違って、どう見てもフラメンコ。ここでも驚かされるが、よく考えたら、映画の舞台であるカマルグ地方はスペイン国境に近く、地図で調べるとパリよりバルセロナの方が近い。お祭りに闘牛まである。頑固爺と娘との和解を、お決まりのハグと涙にしない演出にも脱帽だ。この和解は、単にひとつの家族の物語であるだけでなく、頑固爺とプロバンスに代表される伝統的・保守的なテーゼと、60〜70年代のポップスやヒッピー文化に代表される粗野なアンチテーゼとの和解であるのかもしれない。この上なくさわやかな気分をもらえる一篇であった。祖父に「レオン」などのジャン・レノ、祖母に「髪結いの亭主」のアンナ・ガリエナ(こんなお歳になったんだ)。

モーパッサン