劇場公開日 2017年4月7日

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「家族になるという意味。人間の愛情に貧富の差はない。」LION ライオン 25年目のただいま xmasrose3105さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0家族になるという意味。人間の愛情に貧富の差はない。

2020年8月2日
iPhoneアプリから投稿

インドに住む5歳の主人公が、不運にも、兄とはぐれ迷子となり、浮浪児となる。あぶない大人に利用されそうになりながらも保護され、幸運にも、オーストラリアに住む夫婦の養子となる。この愛情深い養父母はもう1人インド人の男の子を引き取り、4人家族として不自由のない暮らしの中で主人公は育てられる。

幸・不幸はなにが決めるか。
主人公は迷子になったお蔭で、貧困から抜け出せたとも言えます。しかし兄弟となったもう1人の養子の子は、同じ環境でも、全然馴染めず、ずっと適応できないまま苦しんでいる。

主人公は適応し、順風満帆な幸せな人生を送っている。
しかし大学生となり、新しい環境と友人との会話から、何かが動き出す。
自分のルーツへの扉。
それは抑えることのできない自分自身への旅。

インドの母や兄の記憶。地名も自分の名すらうろ覚えなのに。
迷ったあそこから記憶を辿りGoogle Earthで、くる日もくる日も探さずにはいられない。

すると恵まれて幸せだった暮らしが、
突如「吐き気がする」ほど忌々しく感じられてしまう。
実母を探そうとする自分を、養母に知られたくない。
愛しているからこそ傷つけたくない。

仕事、恋人も、養父母との関係も、距離を置くようになり、これまでの穏やかな日常が土台から崩れていきそう。

主人公を傷つけないように、誰も言葉にはしないが...
ほんとは主人公は実母や兄に、捨てられたのではないか。口減らしに。年間何万人も同じような子いるという事実。
20年以上経って親を探したところで、かえってヤブ蛇では。だって真実は時として残酷だから。
ならばもうこのまま、インドのことは忘れて。
今が幸せなら、それでいいじゃないか。

観客の私ですら、苦くもうっすらそんな思いを抱きつつ。主人公の恋人もさりげなく「引っ越してるかもよ」などと言ってみたり。

でも主人公は違いました。
貧しい家だったけれど、母も兄も自分に愛情を持ってくれていたこと。
自分がいなくなって、どれだけ心配しているか。
信じているのです。

5歳でも、自分がほんとうに愛されているかどうか、
わかるんですね。そしてそれは時間が経っても消えない。
逆に甘い言葉をかけても、利用しようとしてるかどうかもわかる。

人間社会は愛もあれば、嘘や偽りもある。
真実は心の眼でしか見えないし、人を信じるのは勇気が要ります。
最近私も人間性善説に迷いが出てきたところです。

でもこのニコール・キッドマン演じる養母が教えてくれる。優しさも、人間のもう一つの真実だと。

養母は2人の養子に、幸せをもらえたと同時に、
大人になっても心が潰れそうなほど心労が重なっています。
養子をとった自分は正しかったのか。
迷いが出たことを正直に打ち明けつつも、本当に選り好みせず、育てにくいもう一人の養子に対しても忍耐強く見守り続けます。

子は授かりものですね、実母だろうが養母だろうが。
愛情とは、覚悟のこと。
自然に湧いてくるだけのものではありません。

私も正直、子育てって20歳になれば終了と思っていました。そこまで頑張るぞって。
が、全然そうじゃない。
一生続く。むしろそこからが大変なことも。

家族になるって、親子になるって、たくさんの課題を乗り越えて行かなくてはならない。
愛情が本物かどうか試されてしまう。血が繋がっていても。残酷です。

一人で越えられない時、その苦しさが、否応なく家族の心にも流れ込んできます。
一緒に耐えられるか。
ギリギリの判断をしないといけないことも出てくる。

いまの世の中は断捨離の流れ、物だけでなく関係も切り捨てることが早いように感じます。
社会も会社も変わりましたから。
ストレスフルだから、簡単にしないと、自分が潰れてしまう。抱えきれないのです。
だから何でも面倒を減らす。

でもこの面倒臭い何か。捨てられない何か。
お金ではなく、それを持つことが豊かさで、人を支えてくれるものかもしれない。
一生に一つか二つくらいですよ。
そういうものに出会うのは。
捨てたら楽なんですが。
逆に安易に手放してはいけないのかも。

若い時は、失くしてもまた次がある、と私も考えていました。
でもそうじゃない。
この映画、実話です。執着しないことは大事だけれど、愛には粘りも要りますね。少し考え、変わりました。

xmasrose3105