劇場公開日 2016年7月22日

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「ヒーローもヴィランもいない!いるのは被害者だけだ。」トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ヒーローもヴィランもいない!いるのは被害者だけだ。

2020年6月12日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 ハリウッドの歴史を知る上で重要な“赤狩り”と“ハリウッド・テン”。共産主義が市民にも受け入れやすくなった第二次大戦前後に映画界にもその波が押し寄せた。しかし、冷戦が始まると、労働組合の実権を握ったり、ソ連のスパイだとして恐れられる存在となり、下院非米活動委員会が動き出したという歴史。実際に一般市民がスパイなんてできるはずもなく、単に政治家自らの保身のために表現・言論の自由を束縛したにすぎない。

 トランボは才能があったために裕福な家庭を築くが、仲間のために裁判費用や入院費を出したりできた。共産党は離党するも、聴聞会に召喚され、リベラルな判事が次々と亡くなったことから上訴も諦め、投獄されることになった。釈放後も偽名を使って次々とB級作品で脚本を書き、やがてそこからまた傑作『黒い牡牛』が生まれてしまう。

 不屈の闘志・・・といっても日本の左翼のイメージはなく。生活の糧でもある脚本業に精を出す姿には驚いてしまうほどでした。風呂の中にもタイプライターや電話を持ち込み、脚本を切り貼りしたりと、まさに風呂場が職場状態!100ページの本を3日で仕上げるにはこれくらい没頭しなければならないんですね。そのB級映画会社の社長役ジョン・グッドマンがいい役で、非米委員会の脅迫にも立ち向かうという、彼もまた生活のため映画を撮り続ける印象が残る。

 聴聞会でつい仲間の名前を喋ってしまう裏切り者に対しても、トランボは優しい言葉をかける。また、肺がんのために亡くなった仲間の借金をも帳消しに。そして、量産する合間を縫って長年構想していた『黒い牡牛』を書き上げる。それが認められ、また偽名ではあるが噂は広がり、『スパルタカス』のカーク・ダグラスとの親交や『栄光への脱出』のオットー・プレミンジャーとも仲良くなるところが素敵だ。いいものはいい!て感じで。

 妻役ダイアン・レイン、長女役エル・ファニングのダルトンを尊敬する眼差しも良かったし、ヴィラン役でもあるヘレン・ミレンも最後には哀愁を感じる。もちろん、主演のブライアン・クランストンもジョン・グッドマンも最高だ。そして、戦争を経験していないジョン・ウェインを嫌いになることも間違いなし(笑)。

kossy
everglazeさんのコメント
2020年6月13日

そうなんです、本作観てからJohn Wayne主演作を観なくなりました…。

everglaze