劇場公開日 2016年5月21日

  • 予告編を見る

「なりたい自分になれなくても」海よりもまだ深く 夢見る電気羊さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5なりたい自分になれなくても

2018年7月1日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD、VOD

是枝監督作品。
別れた元妻に未練タラタラ。
賞をもらった小説から何も書けないでいる自分と、
取材と称したやめられない探偵業務。
全て諦められない夢と自分の過去にしがみつく男。前に進まなければいけない、そうは思っていてもそうできない情けない男である。
誰かの過去になる勇気を持とうや、と探偵事務所の所長に言われ、前に進ませてね、と元妻に言われ。
そんなことは彼もわかっているはず、わかっていたはず、でも自分に言い訳して、時代が、男だから、俺は違う、なんて言いながら誤魔化していくのだが、ある台風の日に元妻と息子と母親の家に泊まって、改めて気づかされるのだった。
母親から、幸せってのは何かを諦めないと得られないの、は重みのある言葉。
誰もがなりたい自分になってるわけじゃない。母親も父親も、こんなはずじゃなかった、という思いで数十年生きているんだ。でもこの上なく楽しく生きていける。父親は息子の書いた小説を町中に配っていたらしい。なりたい自分になれなかったであろう父親で、小説家になることで喧嘩していたのだけど、自分の書く小説を喜んでくれていたのだ。
海よりも深く人を愛せなくたっていい。それでも人は日々を楽しく生きていける。なりたい自分になれなくったって、喜びにあふれた人生を生きていけるじゃあないか。前を向いてさえいれば。
是枝監督作品は静かに胸に迫るところがある。余韻がとても良い。俳優の皆さん、阿部寛、樹木希林、真木よう子さんが素晴らしいのもあるが、やはり監督の手腕も大きい。やはり是枝監督作品は好きだ。
樹木希林さんは本当に面白い。

夢見る電気羊