劇場公開日 2017年3月25日

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「「重力」としてのゴルトベルクと月の光」タレンタイム 優しい歌 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「重力」としてのゴルトベルクと月の光

2020年2月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

マレーシアの世情に疎い自分にとって、ヤスミン監督の作品は、常によく分からない感じがつきまとう。
この作品もストーリーは追えるが、「民族の壁も宗教の壁も越えて」という背景となると、どこまで理解できているのか覚束ない。

また、かなり登場人物が多い。
学校を中心となる「惑星」として、その周りをムルー(マレー系)とハフィズ(マレー系)とマヘシュ(インド系)の3つの家族が、それぞれ「衛星」となって回る。
さらに、カーホウ(中国系)が「彗星」のように加わる。

ただ、メインの話と関係ない“脱線”が多い。それらの「遠心力」によって、話の「軌道」が乱される。
“叔父の死”や“メイド”は、話を分裂させる方向に働くだけだ。
“謎めいた車いすの男”や“教師のオナラ”は、緊張を解くギャグなのかもしれないが(笑)、インパクトが強い「隕石」だ。

結局のところ、全くまとまりのないストーリーを、音楽のもつ強大な「引力」で無理矢理まとめ上げたという印象だ。
「ゴルトベルク変奏曲」のアリアと「月の光」、そしてオリジナル曲の「I Go」と「Angel」という、すべてスローな曲で映画の雰囲気を形作って、それで押し切ってしまう。

“最高傑作”というには物足りない。やはり、まだまだこれからの“夭折”の人だったのだろう。

Imperator