「魔法瓶!」スターレット sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
魔法瓶!
初っ端からショーン・ベイカーの世界。
思わず、心の中で「カッコ良っ!」と声が出た。
大規模な送電線に支配された街並み。よそ行きではない生活感満載の部屋。雑然としているからこそ、なんとも言えない温かみが画面越しに伝わってくる。
いつも通り、観客のために、丁寧に説明してくれる語り手は登場しない。画面の中で普通に生活を送っている人物たちの日常のやり取りから、だんだんと様々なことが読み取れてくるスタイルは、肩書きによる偏見から私たちを解き放ち、登場人物の本質的な部分に注目させる効果もあるのだろう。
醜さや美しさ、冷たさや温かさが入り乱れ、時にはそれが逆転もするが、全部引っくるめた「人間らしさ」が愛おしく、ダメダメな自分自身も赦されたような気持ちになれるところが、ショーン・ベイカー作品に惹かれる理由なんだと改めて思った。
<ここから内容に触れたあれこれ>
・ショーン・ベイカーは、あの魔法瓶からこのストーリーを思いついたのではないか。
それくらい説得力がある、本年度観た作品の中で一二を争う小道具。
花器にピッタリのナイスなデザインで驚いた。
ずっと1人暮らしだったあの彼女は、何十年魔法瓶を使わずに過ごしてきたのだろうと考えると切ない。
・手に入れたお金の使い道として、母親を呼ぼうとする娘の気持ちに観ている側はほっこり。母親も苦しい生活を送っているのかと思わせながら、実は疎遠なのは、彼女の仕事が理由なのかもということが後半の答え合わせで、そこもほろ苦い。
・ビンゴゲーム、ちょっとした民間の宝くじみたいなものなのだろうか。ストーリー上の位置付けとして、本当にちょうどいい塩梅でお見事!
・全く個人的なことだが、長い間そのままになっていた祖母の家の取り壊しがいよいよ決まった。映画の中のセイディや、セイディの家の中と風景、樹木を切り倒して明るくなった庭などがそれに重なって、観ていて胸が詰まった。
・同居していたメリッサの告げ口は気持ちのいいものではないが、彼女もジェーンのお金には一切手をつけていなかったわけで、その誠実さがありつつのダメダメさが、自分は否定できない。
・「私は、あなたを娘のように思っている。」口下手なセイディが、そう言葉にする代わりに精一杯考えた行動が、ラストのシーンだと自分は受け止めた。他の皆さんはどう受け止められたのか知りたい。
・なぜタイトルが、飼い犬の名前である「スターレット」なのかは、自分なりのしっくりする答えが出ていないので、もう少し寝かせておく
