ラスト5イヤーズ : 映画評論・批評
2015年4月14日更新
2015年4月25日よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー
圧倒的な歌唱力と表現力!傑作ミュージカルの魅力を見事に映像化
一組のカップルが出会い、結ばれて結婚し、別れるまでの五年間を描くジェイソン・ロバート・ブラウンのミュージカル「ラスト5イヤーズ」は、02年にオフ・ブロードウェイで上演されて以来、カルト的な人気を集めてきた。舞台では二つの時間軸が混在する。夫であるジェイミーの物語は二人の出会いから別れを順番通りになぞり、妻のキャシーの物語は別れから出会いに向けて時間を遡っていく。プロポーズの瞬間だけ二人の時間軸は一致し、後はすれ違っていく。そのトリッキーな構成は、舞台よりもむしろ映画向きかもしれない。
問題は、この舞台がたった二人の登場人物の歌に支えられているという点だ。その全てが耳に残る名曲であるばかりでなく、歌い手の技量が試されるいわゆる「ビッグ・ソング」だ。ステージで歌うミュージカル俳優にとって、これほどやりがいのある役もないだろう。生だからこそ凄みが伝わるこのミュージカルの魅力が、映像化で削がれる危険も大いにある。
監督のリチャード・ラグラベネーズは舞台のエモーションと迫力をスクリーンに持ち込むべく、十四曲中十一曲の歌を撮影中に同時録音するという手段に出た。リップシンク(口パク)ではなく、演技をしながら実際に歌える俳優が必要となる手法だ。
日本では「マイレージ、マイライフ」で有名な主演のアナ・ケンドリックがキャシーを演じている。彼女は十二歳でトニー賞の候補になったというブロードウェイのベテランでもある。「イントゥ・ザ・ウッズ」でもスティーブン・ソンドハイムの難曲をこなしていたが、その歌声は楽器のように正確で心地よい。ジェイミーを演じるジェレミー・ジョーダンもミュージカル「Newsies」でトニー賞候補になったブロードウェイの新鋭。その歌唱力とカリスマ性で業界の期待を一身に集めている。
これほどまでに実力のある二人でなかったら、歌の向こう側にある複雑な感情を表現するのは難しかったはずだ。共に幸せな唯一のシーンであるはずのプロポーズの場面で、二人のデュエットは別れの予感をたたえて悲しく響き渡る。そのせつなさが素晴らしい。
(山崎まどか)