劇場公開日 2014年12月13日

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「あの頃の記憶とぬくもりは忘れない」イロイロ ぬくもりの記憶 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5あの頃の記憶とぬくもりは忘れない

2020年1月22日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

幸せ

シンガポールの新鋭監督の2013年の作品。
監督の幼少時の自伝的物語、中流家族とメイドの交流…うっすらアルフォンソ・キュアロン監督作『ROMA/ローマ』を彷彿させるが、こちらはこちらでしみじみとさせる佳作。

1997年、アジア通貨危機下のシンガポール。
両親は共働き、その寂しさの鬱憤を晴らすかのように、問題ばかりを起こす一人息子のジャールー。
困った両親は、フィリピン人のテリーを住み込みのメイドとして雇う事に…。

勿論最初は反発してばかり。即刻解雇されそうな迷惑すら掛け、困らせる。
が、忙しい両親と違い、真剣に自分と向き合ってくれる。
何だかんだ言って構ってくれる相手が欲しい、まだまだ子供。
いつしか彼女に心を開くようになる。

問題抱えていたある家庭にやって来たメイドが家族の絆を再び…。
…と、そんな安直な展開にならないのがミソ。

通貨危機により父親は失職。
母親は詐欺に引っ掛かる。
さらに母親が、息子が懐くテリーに嫉妬のような感情を抱く。あからさまに厳しい態度を取るように。
息子の面倒を見る為に雇っといて自分勝手にも思えるが、でも母親の気持ちも分からんでもない。
問題ばかり起こしても息子は息子。もし息子の心が他人に取られたら…。
無論テリーはあくまで仕事としてジャールーの面倒を見、二人の何気ない交流もいいが、母親の悲しさ/つらさも伝わってくる。
この母親役の全く知らぬ女優さんが巧い。

一家もテリーも特別ビジュアルが優れているとかとは程遠く、いい意味で素朴で平凡。それがまたリアルな日常を切り取っている。
ラストもありきたりなハッピーエンドやお涙頂戴にはならない所に好感。余韻が残った。

訳あって、さよならする時が。
幼少時のほんのひと時の交流。
でも忘れない、あの記憶、ぬくもり。

近大