劇場公開日 2013年11月29日

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あさひるばん : インタビュー

2013年11月28日更新
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板尾創路、無欲がもたらした自らの立ち位置

「得体の知れない」という言葉を称賛とともに送りたくなる。役者が本業ではないお笑い芸人やミュージシャンが、映画やドラマに出演することは既に珍しいことではないが、その中でも板尾創路は異彩を放っている。板尾には、何が“本業”なのかという意識すらない。「僕ね、何でもいいんです(笑)。芸人と言われても俳優と言われても。自分でどこに行きたいっていうのもないし、世間で何と言ってもらっても全然、構わない」と飄々(ひょうひょう)と言い放つ。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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映画「あさひるばん」では、主人公の中年トリオの一角を担った。かつての高校野球部の仲良し3人組が30年を経て再会。元マネージャーでいまは病に倒れたマドンナの娘の結婚式を成功させるため、ぶつかり合いながらも力を合わせてひと肌脱ぐという人情劇が展開される。バラエティ番組では“笑い”を提供するのを仕事とする板尾だが「実は、映画でこういう明るいコメディにがっつり出演したことはなかった。日留川(ひるかわ)という役もそうで、こういうのもやってみたいなと思った」と語る。

「釣りバカ日誌」の原作者で、本作で70歳を超えて映画監督デビューを果たしたやまさき十三監督からは、「自由にやってくれ」とお墨付きをもらった。先輩ではあるが30年来の付き合いがあり、板尾の監督作品に出演した経験もある國村隼、ほとんど年の変わらない山寺宏一との“トリオ”は、現場で作り上げていった。

「ベテランの國村さんが『こういう風にしたいけどどうしようか?』と言えば、僕は僕で『ここはもうちょっとこうやって笑いを入れたいですね?』とアイデアを考える。山寺さんは3人が歌ったり踊ったりする時の振り付けやトリオとしての動きを考えてくれたし、3人の特性がバランスよく生かされていると思います」。

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3人はそれぞれに高校時代の悔恨を抱えており、30年ぶりの再会で否応なく過去と向き合うことになる。板尾自身、高校時代は「とにかくバイクが好きで、明けても暮れてもバイクにまたがっていた」という。映画の中でもハーレーを操っているが「あの頃はハーレーなんて夢のまた夢でしたね」と懐かしそうに振り返る。一方で、青春時代の後悔や苦い思い出は「全くないですね」と即答する。

「僕は全てが結果論というか、後悔とか『あの時ああしておけば』という思いは全然ないんです。過去に戻れたら…なんて考えることもないし。もちろん、若い頃からいろんな分岐点はあったし、『あのとき、右じゃなくて左の道を選んでたらどうなっていたかな?』と考えないわけじゃないけど、悔いとかは一切ないですね」。そもそも、若い頃から「将来のことなんて何も考えてなかったし正直、何もしたくなかった」という。高校卒業後、一旦は就職するがその後、お笑いの道に進むべく吉本興業の養成所に入る。「多少なりとも好きなこと、興味があることをやってみようと思った」とは当人の弁。傍から見れば、お笑い芸人を目指し養成所に入学するという決断は、人生の中でもかなり大きな決断に見える。

「僕らの時代は漫才ブームがあって、あれは半分くらい吉本ブームみたいなものですからね。行動力? 全然ないです。そういう意味ではよく入ったなと思いますが(笑)。でも師匠についたわけでもなく、あくまで学校ですからね。自信は……、『それくらいならおれでも出来るやろ』くらいのことは思っていたかな(笑)? でもそんな甘いもんじゃないとも思っていましたよ。行けるとこまで行けたらそれでええやろって、そんな感じでした」。

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実際、そのまま「特に苦労した感覚もなく、単に楽しみながら」ここまでやって来た。90年代の後半から、徐々に俳優としての仕事も舞い込んでくるようになったが「僕の中ではお笑いの仕事も俳優の仕事も特に境目があるわけではなかった。面白そうやなという感覚でやるようになりましたね」と語る。やがて本職以上に引く手あまたの状態になったが、特にスタンスは変わらない。「普段から『これをおれがやるんか?』って思うような役はあまり来ないんです。そういう意味でやりやすいんですよ。『やってみたい役は?』と聞かれるんですが、医者でも刑事でも殺人犯でも何でもいい。面白さを感じるのは、その人物の感情の動きや内面、人物の中にドラマがあるかというところですね」。

なぜ、板尾創路がこれほど作り手から求められるのか。彼だけが持つ独特の存在感。板尾自身はそれを「違和感」という言葉で表現する。「いい意味で違和感というのを持ってもらえているんだなと思います。それがうまく役柄と合わさって存在感につながっているのかなと。笑いにしろ映画にしろ、結局は見た目ってすごく大事。作るというよりも、そこにいるだけでちゃんとその人物の雰囲気が出るかどうかってすごく大事だし、必要なことだと思います。お笑いの世界でも僕と重なるようなやつ――ライバルとか競合相手というのがいないんですよね。それは必要とされていないということなのかとも思うけど(笑)。僕なりにやれるポジションというのがあるので、それがいいなと思っています」。

ここまでの話を聞いて、当然の帰結ではあるが、今後に向けた展望などというものも「全然ない(笑)」。忙しすぎず、ヒマすぎずに「出来るだけ仕事を続ける」というのが唯一の意思。もちろん仕事に“お笑い”や“俳優”といった区分けはない。最後の最後まで、何とも本心の読めない、捉えどころのない口調でこう語る。「そこそこお金もほしいけど、あんまりスポットライト当てられてもかなわんなと思うし(笑)。あとは、どんな仕事でもお客さんに楽しんでもらうってことですかね」。

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