劇場公開日 2014年5月31日

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罪の手ざわり : 映画評論・批評

2014年5月27日更新

2014年5月31日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー

武侠の登場人物に重ねて語られる、格差社会の罪人たち

ジャ・ジャンクーにとって「長江哀歌」以来7年ぶりの長編劇映画となる「罪の手ざわり」では、最近の中国で起こった4つの事件が巧みに結び付けられ、広い中国の各地に舞台を移しながら著しい格差が生み出す悲劇が浮き彫りにされていく。

この新作でまず目を奪われるのは、これまでにない鮮烈な暴力描写だ。山西省では、村の共同所有だった炭鉱の利益が実業家に独占されていることに怒りを抑えられない男ダーハイが猟銃を持ちだす。重慶に妻子を残して出稼ぎ出た男チョウは、土地を転々としながら強盗を繰り返す。湖北省の風俗サウナで受付係として働く女シャオユーは、金にものを言わせてサービスを強要する客に我慢がならず、ナイフを手にする。広東省では、仕事に馴染めない純朴な青年シャオホイがナイトクラブのダンサーにのめり込んでいく。

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この主人公たちはなぜ一線を超えてしまうのか。経済発展の中で権力を手にした者から、尊厳を踏みにじられるからだけではない。ダーハイの隣人はみな実業家に丸め込まれている。チョウの故郷には地縁も伝統も残っているが、屈折した感情を抱える彼はそれを拒絶する。不倫の泥沼にはまり込んだシャオユーは、故郷に戻ることも考えるが、母親が離婚を決意していることを知る。シャオホイの母親は、息子からの仕送りしか頭にない。つまり彼らには戻るべき場所も失われている。

しかし、この映画は人と人の繋がりがずたずたに分断されたままでは終わらない。見逃せないのは、中世を舞台に武術や侠気の世界を描く武侠という伝統的な大衆娯楽が盛り込まれていることだ。ダーハイは村の広場で演じられている古典演劇「水滸伝」を目にし、ナイフで客に立ち向かうシャオユーは一瞬、武侠の世界の人物に変貌を遂げる。ジャ監督は、孤立する主人公たちを単に犯罪者として描くのではなく、大衆が共感をもって受け止めてきた武侠の物語の登場人物に重ねてもいる。

大場正明

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