われ泣きぬれて

劇場公開日:

解説

「バラ屋敷の惨劇」「母の灯」の石田清吉企画。「母の灯」「悪魔の乾杯」の沢村勉脚本「バラ屋敷の惨劇」の芦田正監督、同じく「バラ屋敷の惨劇」の鹿島正雄が撮影担当。主演は「土曜夫人」の若原雅雄「安城家の舞踏会」津島恵子、それに「白粉帖」の徳大寺伸「激怒」の月丘千秋らである。

1948年製作/91分/日本
配給:松竹・京都
劇場公開日:1948年2月24日

ストーリー

石川啄木は今病の床にふせっている。赤貧洗うが如き状態が続き、薬代さえ最早何処からも出ない。妻の節子は途方にくれる以外にどうすることも出来ぬ。同郷の先輩金田一京助の心からの援助も、今は焼石に水であった。“今日もまた胸に痛みあり、死ぬならばふるさとに行きて死なむと思う”まくら元に出ているやせ細った啄木の手に、詩のノートがあった。悲しい歌だ。親友若山牧水はこれをみて啄木を励ました。「死ぬことを考えてるのか。そりゃいけない、どうでもして生き抜くことを考えなけりゃ、君の詩を出版し給え、そうすればくらしの助けにもなるじゃないか」啄木は頭をふる。「これは出版したくないんだ」。牧水にも節子にも啄木の気持は判らなかった。ふるさと澁民村に帰りたい、と啄木が口癖のようにいい出した。ああ、ふるさとの山川、そしてあの小学校、啄木のまぶたの中に浮ぶ景色。しかし無情な死が若い啄木をつれ去って行く。節子の悲しみ、先輩友人の嘆き。一子京子だけは何も知らずにいう。「お父ちゃんはいつ帰って来るの?」節子の脳裏に今はクッキリとふるさとの姿が浮ぶ。せめて遺髪だけでも思い出の地に……。節子は京子を抱きしめながら澁民村を訪れた。五年前のあの迫害を受けた土地。啄木がいかに手ひどい仕打をされたか。小学校の校長以下、村人達の無知、がん迷、抜き難い封建思想のために、情熱と博愛の詩人、新しき社会の讃肯者啄木はのら犬のように村を追い出されたのだ。節子の目の前を走り回るそれら数々の灰色の断想。そして数年経た今日、未だに自分達を白い眼でみる村の人々。やはり来るんじゃなかった。後悔が胸をかすめて節子の足どりは重い。思い出の橋のたもとにたたずむ彼女。その時節子の前にかつての啄木の教え子が現われた。彼は節子の顔をみるなり走り去った。やがて彼女の前に当時の校長安藤以下、五十人にも余る啄木の教え子達が立派な若者になってずらりと並んだ。その顔には敬けんな色が……。とめどもなくあふれ出る涙をぬぐいもあえぬ節子であった。

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