劇場公開日 2014年4月12日

「「引き」のギャグ美学の集大成」トラフィック(1971) PWさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「引き」のギャグ美学の集大成

2018年8月1日
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こんな映画をマイ・オールタイム・ベストにするのもどうかと思うような、敬愛するジャック・タチ監督の、究極のヘンテコ・スラップスティック・ロードムービー。ヘンテコな映画だ、というのが分かりやすく感じられるぶん、まだ人に勧める余地があるかも、と信じているが、これが同監督の前作『プレイタイム』になると、どこがどうヘンテコなのかさえも分からなくなり、オチのない話を放置状態にするシークエンスの連続に、唖然とするしかなく、どうにもこうにもレコメンドしにくいという…。そんなジャック・タチの類まれなる作家性は、トリュフォーやオーソン・ウェルズが早い時期に気付き、絶賛していたと言うし、多分、お薦めするのもアリなんじゃないか、と…。

モーターショーに向けて、パリのある自動車会社が開発した多目的キャンピング・カ―を出品するため、この車と共に、一行がショー開催地のアムステルダムまで国境を越えていくのだが、いろんな障害のため、なかなか目的地にたどり着けない、という不条理劇。ネタバレしようがないほど、見事にさしたるストーリーなし。有益なセリフもほぼなし。誤解を恐れずに言えば、すべてが“ムダ”と“余白”で構成された1時間半。主役は人間ではなく、このキャンピング・カーだろうか。なんといってもこの車、機能がオトボケで可愛いのだ。ボンドカーのように敵をやっつける機能はないが、フロントを引っ張り出すとグリルになっていてお肉が焼けたり、ひげ剃り機能があったりと、いろいろとお茶目。そして、一応は狂言回しとなるユロ氏。観客に気付かれなくてもいい、と言わんばかりに、スクリーンの隅っこでさりげなく連発する地味な職人ギャグは、まさにユロ氏=ジャック・タチならでは。ハリウッド・スタイルとは異なる方法論で導き出された「引き」のギャグ美学を、一つひとつ見逃さずに捉え、静かに見守ることの楽しさ。

道路で玉突き事故に遭った車の部品が、ドリフのコントさながらに派手に散らばって転がると、運転手たちが車を降りて一斉に、それぞれの部品をひたすら追いかけ、さらには車本体までが、壊れたバンパーを口のようにパカパカと開けて、部品を追いかけるシーンが、個人的にはドツボ。他にも、ストーリーは連鎖しないくせに、すっとぼけた小ネタだけはドミノ倒しのように細かく連鎖していく。そんな様子をおかしく観ているうちに、自動車が限りなく生き物のように愛おしく、逆に人間がオートメーション化された機械のように見えてくるから不思議。逆転の発想が生んだ、愉快で洗練されたモータリゼーション風刺劇だ。あと見逃せないのが、女性への粋な気遣い。ニクいぞ、ユロ氏。

PW