劇場公開日 1963年7月5日

「パニックホラーの原点にして頂点」鳥 ヨックモックさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5パニックホラーの原点にして頂点

2018年5月10日
PCから投稿

「映画通っぽいオッサンがよく褒めてるよね…。通が通ぶるために褒めてるだけだろ?」って先入観で見てみたらクソ面白かった系の古典。すべてのパニックホラーの原点にして頂点。

日常と非日常の境界線のボカし具合が素晴らしい。この作品のあらすじだけを見ると荒唐無稽なのに、いざ観てみると日常をじわじわと侵食し始める異常と恐怖が非常に自然にできていて、気が付くと作品世界に囚われている。

鳥たちの脅威の塩梅も丁度良い。凡百のパニック映画にありがちな無敵最強のクリーチャーやゾンビではなく、一羽一羽は弱い鳥が群れなして形作る災厄は、状況によっては子供ひとり殺さないが、しかし時には大人たちを逃げ惑わせて大怪我をさせ、場合によっては死に至らしめる。この“致死率100%ではない脅威”が、恐怖をよりリアルなものにしている。

特に印象的なシーンは、タバコを吸ってる後ろでじわじわ増えていく鳥。メラニーと校庭のジャングルジムを交互に撮しながら、だんだん増えていく鳥…じりじり高まる緊張感。そして何度目かの画面転換で、ぶわっと増えている鳥! 嫌な予感が静かにスムーズに結実するこのテンポ!うしろうしろー!

見ている間もやけに静かだと感じていたが、調べてみるとほとんどBGMも効果音も使っていない作品だった。
上記のシーン含めて、仰々しい効果音や品のない芝居がかった叫び声などよりもこの無音と絶句こそが、人が真に脅威を感じ追い詰められた時の正常な反応なのだ。

鳥たちが狂った理由を明示しないというだけでなく、冒頭でその要因を匂わす程度に触れているという塩梅も素晴らしい。謎の病原菌が蔓延していることを自然と想像させるが、少女の言うようにラブバードが特別な鳥だと考えるロマンチックな解釈もできるし、いずれのものでもないのかもしれない。この港町だけの局地的な出来事かもしれないし、世界中の鳥が狂っているのかもしれない。空想の余地が美しいバランスで残されている。

ヨックモック