劇場公開日 2013年1月12日

映画 鈴木先生 : インタビュー

2013年1月11日更新

「鈴木先生」長谷川博己が追い求める理想の姿とは

ハマリ役と言われるほどの役にめぐり会うことは、役者にとってこのうえない喜び。演劇の世界で実績を積み、「セカンドバージン」で注目され、「家政婦のミタ」で大ブレイクした長谷川博己にとって、自身の名を広めたこの2作はたしかにハマリ役だったが、それ以上にハマリ役だったのが、黒縁メガネとループタイがトレードマークの「鈴木先生」だ。「ふだん無意識的にも意識的にも自分の考えていたことが、このドラマのなかにすべて入っていて、それをセリフとして語ることができてうれしかった」と長谷川の心に深く突き刺さったこのドラマは、ギャラクシー賞優秀賞をはじめ数々の賞を総なめという快挙をなし遂げた。そして、この1月にスクリーンに登場する。(取材・文/新谷里映、撮影/本城典子)

ドラマでも映画でも学園ものは数多く作られてきたが、「鈴木先生」にはこれまでにない「面白さがある」と長谷川は分析する。「教師のプライベートな時間とか妄想とか、これまであまり描かれなかったこと、描かなくていいことを描いているところが面白いですよね(笑)。しかも、学園ドラマのようで実はそうではなく、教室を舞台に社会問題を描いている、立派な社会派ドラマだとも思いました」と語るように、大人にも響く、いや大人にこそ響くメッセージが込められている。なかでも、“神は細部にこそ宿りたもう”というテーマ(言葉)は、長谷川が鈴木先生を演じるうえでの核となった。

「ふだん見過ごしてしまいがちな問題にスポットをあて、考え、解決していくというのが面白いんです。(今の学校教育は)手の掛からない生徒たちの心の摩耗のうえに成り立っているという、分かりやすく目に見えるものよりも、それを陰で支えているというか、犠牲になっているというか、見えない小さな部分が大事なんだという考えが面白いんです」

その「見えない小さな部分」に目を配り、鈴木先生は独自の教育理論〈鈴木式教育メソッド〉を駆使し、理想のクラスを作り上げようとするわけだが、長谷川を悩ませたのは普通ではないセリフの数々と、鈴木先生の心の声、頭の中の考えが文字として映し出されるモノローグだった。

「原作の漫画では割とリアクションが大きかったりするんですが、それを(実写で)どうするのか、はじめのうちは手探りでした。考えつつ進めていった感じですね。モノローグにしても、ある程度の計算が必要で、頭のなかでぼそぼそ言いながら(演じていると)、気がつくと監督も僕も『あっ、あの1行言い忘れていた!』なんてことも。とにかく、難しい言葉が多くて、あれはもうセリフじゃなくて哲学とか思想の域(苦笑)。さらに、この作品はコメディとシリアスのすれすれのラインにあって、そのバランスも難しかった。真面目なことを言えば言うほどおかしく見えることもあるし、おかしいところは逆に真剣にやった方がよかったり。逆のパターンでやることが大事なんだと気づかされました」

1000人を超えるオーディションを勝ち抜いた生徒役の若手俳優たちとの共演も、長谷川の役者魂を刺激した。役としては先生と生徒、俳優としては先輩と後輩という立場のもと、長谷川が先輩として気をつかったのは「ダメな部分を見せないこと」だった。「中学2年というと14~15歳、その生徒役を演じる若手俳優に対して何ができるかを考え、出てきた答えは先輩俳優として(演技を)“見せる”ことでした。そうすることが自然と先生と生徒の関係にもつながるんじゃないかなと。だから、彼らの前ではダメな部分を見せないようにしていましたね(笑)。その分、妄想のシーンでダメダメな部分を自由に演じられたというか、楽しみながら演じることができました。ただひとり、小川蘇美役の土屋太凰さんにだけはダメな姿を見られてしまいましたけど(笑)」

先生がそんな妄想を!? という、人間くささをしっかりと描いたからこそ「鈴木先生」の支持率は徐々に上がっていったのかもしれない。それは演じている長谷川自身が理解していたことでもある。「映画化じゃなくても、僕のなかでは続編ができると思っていたんですよね。それは、僕がいつも意見をもらう人たちから『鈴木先生』の続編を見たいという声があがっていたこともありますけど、そもそも“良いものを作っている”という自信があった。だから、必ず次もやってくれるだろうなとは思っていました」

その自信は現実となり、「映画 鈴木先生」ではドラマの最終回のその後、二学期を迎えた2年A組が描かれる。生徒会選挙と文化祭という2大行事のさなか、緋桜山中学校史上最悪の立てこもり事件がぼっ発。今まで以上に熱い鈴木先生を目にする。また、ドラマから映画へと広がりを見せる「鈴木先生」は、さまざまな畑から才能が集まっている作品でもある。主演の長谷川をはじめ、監督は相米慎二監督、黒木和雄監督、崔洋一監督ら名だたる名匠のもとで助監督を経験してきた河合勇人、脚本は「相棒」シリーズの古沢良太──。長谷川いわく「舞台は舞台の、映像は映像のそれぞれの良さがあると思うけれど、舞台、映画、ドラマの垣根はなくなってきていると思うんです。今回のように映画のスタッフがテレビを撮ったり、その逆もあったり。もちろん、演じる場所によって演じ方は変わるけれど、僕はただ演じるだけ、それは今も昔も少しも変わらないですね」と胸を張る。

そして最後に、今も昔も変わらず役者を続けている理由を投げかけてみた。「やっぱり、理想の姿というのを思い描いているから、そういうふうになりたいと思っているから、続けているんでしょうね。ただ、こういうふうになりたいの“こういう”がどんなものかは具体的には言えない。言ってしまうとダメになってしまうので、自分の心に秘めておきたいんです(笑)」。その理想の姿がどんなものなのか、舞台、映画、ドラマを通して見続けていきたい。

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