劇場公開日 2012年3月3日

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アリランのレビュー・感想・評価

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3.5斬新

2023年8月11日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

2020年12月、まさかコロナでキム・ギドク監督が亡くなるとは、未だに信じたくないです。今作は初めて観ましたが、ありのままの自分とそれに対峙するもう一人の自分、その二人を俯瞰する第三の視点が交錯し、ギドク監督ならではの斬新かつ衝撃的な内容でした。「悲夢」(07)における事故のことはよく知らなかったのですが、命や人間の尊厳を描いてきた監督ゆえにその苦悩は深く、痛々しいものだったように思えました。ギドク監督作品は、観ていて心地よいものというのはなく、寒色系の寒々した感覚になるのですが、一方でオブラートに包まれてない濁りのない透明度を感じます。「嘆きのピエタ」(12)がこの3年間の隠遁生活のあとで作られたことも納得でした。

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赤ヒゲ

4.5悪趣味!PR劇場にようこそ

2012年6月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

「サマリア」「弓」など、決して商業ベースに乗っからない、かつ、国際的に高い評価を集める作品を作り続ける韓国人監督、キム・ギドクが、自らの抱える心の葛藤、苦悩、不審をベースに作り上げた個性派ドキュメンタリー作品。

目の前に、甘く香るケーキがある。美味しそう・・でも、誰のだろう。食べたい!すると、目の前に悪魔の姿をした自分が現れ耳元でささやく。「こんな所に置きっぱなしにした奴が悪いのさ。食べてしまえ」すると、反対の耳元に天使の姿をした自分が現れる。「ダメ!きっと、ケーキの持ち主は悲しむよ。食べちゃダメ」さあ、どうしようか。どうしよう、どうしよう・・。

そんな、少年漫画に出てきそうな自分自身とのせめぎ合いに毒と、疑惑と、皮肉を濃度100%にして塗りたくれば、本作のように良質な一本の映画になる。流石の変態、おっと、才気の塊、キム先生である。

世界中から絶賛の嵐を呼び込む問題作を数多く吐き出してきた作り手。同時に、「分からん・・」で一蹴される前衛絵画の如き抽象性に対する批判も同じ割合で呼び込んできた。なぜ、世界はキム・ギドクから目が離せないのか。

本作は、作り手自身の悶々とした自問自答というネガティブな表向きテーマを転がしていくように見えて、実のところ「俺・・やっぱり格好良いだろう?」というナルシストぶりが存分に溢れ出す作り手の魅力を観客に再確認してもらうという裏テーマが機動している作品である。

料理、機械製作、パソコンに向かって創作に勤しむ姿。「人生なんてさ」と悲しむ男の哀愁もないわけではないが、そこには神経質に自分の個性、魅力を描こうとする作り手の策略が見え隠れする。「アリラン」を泣きながら歌うその絶望も、一歩間違えば「おお・・意外と歌、上手いんですね」となる。悲しさ、未来への不安という餌にひかれて寄ってきた観客は、いつのまにやら作り手のヒロイズム溢れる男臭さに魅了されている。

終盤、男が拳銃を手に街を闊歩する姿は、悪を退治する西部劇スターよろしくキメている。もう、苦笑いしかない。やっぱり、こいつはキム・ギドクだ。目立つことに命を懸ける、野獣だ。

この作品が、観客に対して突きつける答え。それは、一人の映画監督の苦悩、絶望の姿そのものではない。その裏にある、一人の芸術家が作り上げた自分万歳!劇場の巧妙さと、危険性である。引きこもった悲しみの映画監督という闇も、徹底して突き詰めれば闇をひっくり返す演出になる。

作り手は私たちをあざ笑うように、自らのPRへと映像を静かにすり替えている。「さあ、気付くかな?」と、馬鹿にしたように偽りの涙を流す。

ひどく悪趣味な演出が光る一本である。と同時に、私は純粋に嬉しいのだ。こうやって、観客を豪快にだまし、笑い飛ばすブラックなユーモアが満ち溢れる作品に出合えた事を。そんな、危険な皮肉に満ちた作品を産み落とす作り手、キム・ギドクのいやらしさを再確認できたことが。嬉しいのだ。

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ダックス奮闘{ふんとう}

3.5今ここから脱したい、もがく人に見てほしい

2012年3月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

難しい

キム・ギドクに関心のない人が見た場合、どう感じるだろうか。
国際的に評価を得ているキム監督は、分かりやすく説明するなら「韓国の北野武」といっていいだろう。

商業的に大ヒットする作品は撮らずとも、玄人筋には受けるし、「問題作」と呼ばれる作品も片手に余る。

その監督が映画=作品を撮れなくなって、引きこもり状態になったという。

監督自身の来し方を、ドキュメンタリータッチで腑分けしながら、ファンタジー的要素もちりばめた作品だ。

クリエーターが、物を作り出せなくなり、追い込まれる姿を描いているわけだが、それが見る物に熱く伝わる。

監督のように功成り名を遂げた人間でも引きこもってしまうのだが、もっと小さな理由で引きこもっている凡百の人間にも、そこから脱しようとしてもがくキム監督には共感できるのではないか。

評者はキム監督と以前会ったことがあり、「春夏秋冬 そして春」などは好きな作品の一つだ。それだけに、この映画にはジーンと来る物があった。

これもまたもうひとつの韓国映像作品なわけである。

平日昼間の渋谷シアターフォーラムの観客は10人にも満たなかったが、キム監督の映像宇宙にみな衝撃を受けただろう。

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町谷東光