劇場公開日 2012年1月21日

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「生活環境が作る「悪」」アニマル・キングダム バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0生活環境が作る「悪」

2020年2月12日
PCから投稿

2017年のブラッド・ピット主演映画『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』や2019年のティモシー・シャラメ主演映画『キング』といったNetflix配給作品を近年は手掛けているデヴィッド・ミショッドが1988年にメルボルンで起きた警察2名を射殺し無罪判決を受けたトレヴァー・ペティンギルとその家族をモデルにしており、実話から着想を得て、脚本も手掛けた長編映画デビュー作品である。

母が麻薬の過剰摂取で死亡したことで、祖母のジャニーンに引き取られることになったジョシュア。母の死や疎遠になっていた祖母の元で暮らすというティーンエイジャーにとっては大事件が連続してしまい、気持ちの行き場がないのにも関わらず、ジョシュアは祖母の家族は犯罪によって生計を立てている犯罪家族でジャニーンも黙認しているという悪夢のような状態に更に苦しむことになるが、その中でも常識はわきまえている者や歳の近い友達のような者もいる。この何気ない日常はジョシュアの感覚を麻痺させていく。

やっていることは犯罪なのにも関わらず、家族としてのあるべき風景を垣間見えることができるのだ。つまり、日常に犯罪が定着としているが人間関係は良好ということだ。黒人街を扱った作品でもこの手の問題は扱われることが多い、自分の意思とは反して、環境によって人格が形成されてしまう。環境が作る悪だ。

その中に入ることでしか生きられなくなったジョシュアが、自分の意思とは反して次第に犯罪に加担する様になってしまうという過程をティーンならではの感情も入交り、ジョシュア目線で追体験させるという恐ろしく巧妙な映画である。

そんな環境の変化に目をつけたのが、ガイ・ピアーズが演じる刑事巡査部長のネイサン。ネイサンがジョシュアに接触するようになってからは、刑事と家族との板挟み状態になってしまうジョシュア。その中で裏切っているのではないかと疑う者も出てきたりと、ドロドロな関係性へと物語は進んで行ってしまう。

実は常識人であるはずの祖母が行動を操っていて、またジャッキー・ウィーバーが笑顔の中にも時々みせる狂気性が恐ろしい。この演技によって、第83回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたのは納得だ。

そんな祖母から逃げたはずのジュシュアの母はどうなったのか…薬物中毒で死んでしまった。そう考えると犯罪まみれの理不尽な状況でも、次第に得られた安心感はジョシュアを留まらせた、留まることしかできなかった原因ではあるが、ガールフレンドにあることが起きてからは、事態は一変してより複雑でスリリングな泥沼へ向かっていくという終始緊張感が絶えない作品であった。

バフィー吉川(Buffys Movie)