劇場公開日 2012年3月24日

  • 予告編を見る

「マイケル・シャノンはクリストファー・ウォーケンに似ている。」テイク・シェルター 梅薫庵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0マイケル・シャノンはクリストファー・ウォーケンに似ている。

2012年3月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

平凡なブルーワーカー、カーティスは悪夢にうなされる。

嵐がやってきて、エンジンオイルのような粘っこい雨が全身を濡らす。おとなしい飼い犬が、突然自分に噛みついてくる。得体のしれない何者かが、耳の聞こえない一人娘を拉致する。

次第に妄想と幻覚が酷くなってきた彼は、妻に無断で嵐から自分たちの身を守るシェルターを庭先に作り始める。友人からも見放されたカーティスはだったが、ある夜、本当の嵐がやって来て……。

強迫性障害により、幻覚、妄想の世界に落ちて行く男。マイケル・シャノンの、大袈裟でない、本当に神経を病むというのはこういうことなんだな、とわかるほどのリアルな演技がコワイ。余計な恐怖描写がなく物語自体は、淡々と進むけれど、映画全編をとおして、奥歯に出来た虫歯の鈍痛のような不快感に包まれる。しかしそんな中で光っているのは、ジェシカ・ジャステイン演じる、カーティスの妻サマンサ。月並みで通俗的な話なら、夫を見捨てるところなんだろうけれど、彼女は折れそうになる心を必死に支えながら、夫のことを思い続ける。

舞台はおそらくオハイオ州。大都市からはかなり離れている田舎町。この設定もまたいい。大都市とは違って、医療機関もなく、宗教や地縁血縁の結びつきが強い土地柄で、自分の出自からおこってしまった、心の異常を自分でなんとかしようと焦るカーティスの気持ちも良くわかり、サイコな人物設定にもかかわらず、感情移入し易い。

あと幼い一人娘が、耳が不自由、という設定も効いている。最後まで不安な表情を見せない上に、手話で両親と簡単にコミニュケーションを取ることのできる存在は、主人公カーティスとは表裏である。

終盤からラストにかけ、無気味な予兆を残して映画は終わるが、ここに現代人の誰もが、心の何処かに持っている不安を象徴しているように思えてならない。

それにしても、カーティスの役柄はひと昔前なら、クリストファー・ウォーケンが演ってたね。

3月27日 銀座テアトルシネマ

梅薫庵