劇場公開日 2011年6月18日

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「トイレ、もう少し我慢して・・・」東京公園 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0トイレ、もう少し我慢して・・・

2011年6月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

幸せ

「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」などの作品で知られる青山真治監督が、三浦春馬、小西真奈美などの人気俳優陣を迎えて描く、群像劇。

人間、どうしてもトイレを我慢できないのが宿命である。映画上映中であってもそれは例外ではなく、クライマックスに向けて最大限に盛り上がっていく物語に備え、途中でトイレを済まされる方々も多い。だが、本作の場合ラストシーンよりも、涙の告白シーンよりも、どうしてもその目で観て欲しいシーンが存在する。どうか・・トイレはもう少し、ご辛抱を。

「カメラ」そして「写真」というキーワードを軸に展開される世界。それまで真正面から向き合うことを恐れ、うやむやに繋がり続けてきた主人公、光治と本作を彩る女性たち。彼等はとある出来事をきっかけに、カメラのレンズ越しにお互いを見つめ直していく。目を背けてきた事実、言えなかった想い、そして嘘・・・。

畳み掛けるような台詞の応酬と対照的に、言葉を抑え付けた沈黙の撮影シーン。「好き」という単一の感情を原動力に突き進んでいく情熱的なラブストーリーを望んでいる方にはいささか食い足りないような淡白さが滲み出す作品だが、言えない、言ってはいけない、でも、言いたい・・そんな豊穣な心の葛藤が描く大人の恋愛の楽しさを丁寧に、可愛らしく描く空気感が、とても気持ち良い余韻を与えてくれる。

さて、三浦演じる光治はレンズ越しに個性的な女性達と静かに語り合っていくのだが、その中でも小西演じる美咲との言葉を排除した語らいが秀逸の出来である。

柔らかい明かりに満ちる部屋を支配する色気、誠実さ、そして隠してきた愛が観客に示しだす親密な心の会話。言葉はなくても感情は暴れだし、溢れ出し、観客を絡みとって離してくれない。もう、観客は作り手が心を込めて作り出した温かい空間にまばたきを忘れてしまう。この作品にほれ込んだ人間の一人として、是非とも本シーンは寝る事無く、トイレに行く事無く、隅から隅まで味わい、切なくも極上に甘い魅力を感じて欲しい。

ラブストーリーという枠にはまらない、気味悪くも、ふわふわ可愛い人間を真っ直ぐに見つめ、捉えていく上質の人間ドラマとして完成している本作。手放しで作品を褒め称えるのも若干気後れしてしまうものだが、他に言葉が見つからないのだから仕方が無い。ただ、この映画に出会えたことに感謝する限りである。

ダックス奮闘{ふんとう}