劇場公開日 2010年6月12日

「女優という「商品」」FLOWERS フラワーズ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5女優という「商品」

2011年3月9日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

知的

幸せ

「タイヨウのうた」でその名を知らしめた小泉徳宏監督が、現代を代表する女優6人を起用して描く、群像劇。

それぞれの女優に設定された物語は奇を衒うことなく、極めてシンプルな展開を持ち込んでいる。しかし、この作品の場合に重要視されるのは脚本の転がし方ではない。現代の日本映画界にあって、女優という「商品」の価値を見つめ直すこと。それが、本作に託された役割ではないのか。

傍らにビールやら、生命保険やら、金鳥の夏やらが置かれていそうな映像の洗練さに、まずは驚かされる。それもそのはず、資生堂がスポンサーに名を連ねる本作、製作陣に大手広告会社アサツー・ディー・ケイが加わっている。作家の夢、理想を描き出す映画という世界にあって、「商品」を極限まで美しく輝かせることに目的が置かれるコマーシャルの分野が手を貸すこと自体、違和感を感じる。

だが、裏を返せば、広告会社が製作に入り込まなければいけなかったのだ。

ブルーシートの前で、無機質なワイヤーに吊られて、3Dで飛び出て作り出される現代映画界。その中にあって、女優という「美」の象徴は本質を見失いつつある。素朴な風景の中で、ありふれた日常の中で、煌びやかな舞台で女優の内側から輝きだすものを「美」と呼んでいたはずの観客の意識が、変わり始めている。それでは、これまで観客が映画に見てきた「美しさ」とは、何だったのか。

それを探し出すために、時代時代に取り入れられてきた技術を、コマーシャリズムという時代の流行を徹底して取り入れ、素直に女優という商品を売り込もうと挑んでいる。物語を超えて、過剰な演出を超えて、もう一度日本の「女性」が持っている本質的な輝き、魅力を捉えることに心を砕いている。安っぽいかもしれない。刺激的ではないかもしれない。でも、そうやって日本映画は人間を見つめてきたはずだ。それが、正しい時代があったはずだ。

本当に、今の女優は真に美しいといえるのか。正しいといえるのか。その素朴な好奇心が生み出した本作。しかし、現代の映画界がいずれ通らなくてはいけない道ではなかったかとも、思う。

余計なものを削り、削り、必要な魅力だけを丁寧に掬い上げる。フルCGに慣れきった観客を試すような企画の大胆さ。そして、したたかさ。もう一度、クラシックな映画に燦然と輝く女優の魅力を再確認したくなる意欲作である。

いつの時代も、彼女達は映画の中で笑っていたはずだから。きっと、美しかったはずだから。

ダックス奮闘{ふんとう}