劇場公開日 2010年9月25日

おにいちゃんのハナビ : インタビュー

2010年9月17日更新

夜空に直径800メートルの大輪が咲く、新潟県小千谷市の片貝まつり。四尺玉が打ち上げられる世界一の花火大会には、静かな片貝の町に暮らす人々の個人的で特別な思いが込められている。「おにいちゃんのハナビ」は、2005年秋に放映されたドキュメンタリー番組のエピソードをきっかけに始動。成人を迎える兄が天国の妹のために手づくりの花火を捧げた実話をもとに映画化された。兄・太郎を演じるのは「蛇にピアス」以降、「蟹工船」「ソラニン」「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」と話題作への出演が相次ぐ高良健吾。白血病の妹・華(ハナ)を「神様のパズル」「サマーウォーズ」など幅広いジャンルで活躍する若手女優の谷村美月が演じている。(取材・文:編集部、写真:堀弥生)

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似たもの同士の安心感 高良健吾&谷村美月、絶妙の兄妹役

病弱な妹のために東京から引っ越してきたことで、孤独な高校生活を送り、引きこもりになった兄・太郎。高良も転勤族の家庭で育った経験から、太郎の気持ちは痛いほど分かるという。白血病に侵されながらも、元気いっぱいの笑顔で兄を励まし支え続ける妹・華は、家族をつなぐ要のような存在だ。谷村は今回、役づくりのため髪を剃り落として撮影にのぞんだ。

高良「太郎の性格も生きてきた環境も、自分に重なる部分があるんです。慣れた土地を離れなきゃいけない、新しい場所になじんで友だちをつくらなきゃいけない、そのためにどれだけのエネルギーが必要か。太郎の苦労やプレッシャーは、めちゃくちゃよく分かります。実は、台本をいただく前は “難病もの”と聞いて、ちょっと偏見があったんです。でも、実際にストーリーを読んだら、胸に響く本当にいい話でした」

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谷村「華は人のことを思いやる気持ちにあふれた女の子で、彼女から学ぶことはたくさんありましたね。この役にめぐり合えたことがうれしかったので、演じるからには坊主にしたいと思いました。さすがに頭を剃った直後の自分の姿を見たときは衝撃だったけれど(笑)、役柄にとって必要なことだったし、私の意思を尊重してくれた事務所の人や周囲の方々に感謝しました」

高良「美月ちゃんが、坊主にできないならこの役はやらなかったと言っていたんですよ。その姿勢をほんとに尊敬しますね。男がスキンヘッドにするのは簡単だけど、女の子にとっては絶対キツいはずだから。でも、女優さんとしてそこまで思い切って、なおかつ周囲に感謝する気持ちを持てるというのはすごいことだと思います」

華はカツラをかぶって兄のアルバイトに付き添い、片貝まつりの成人会を訪れ、兄を入れてくれるよう頼み込む。400年の伝統を誇る片貝まつりの花火は、出産や成人、結婚、還暦など人生の節目のお祝い、故人への思慕といった私的な喜びとメッセージが込められた、地元の大切な風習だ。

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高良「とても個人的な、祈りに近い花火ですよね。生まれてくる子どもや亡くなった家族といった特定の人のために打ち上げられた花火なのに、見に来た人たちみんながその思いを共有することができて、前向きな気持ちになれる。実際に見るとすごい迫力ですよ。あの花火大会があるかないかで、片貝の町の表情やたたずまいも変わると思いますね」

谷村「私も片貝の人たちがうらやましかったです。1つ1つの花火に感動したし、改めて花火をちゃんと見た気がしましたね。私の地元(大阪)にもこんな花火大会があったらいいのにと思いました」

病が悪化し、ベッドでチューブにつながれながら「お兄ちゃんの花火が見たい」とほほ笑む華と、自分の殻を破ってその思いに応えようとする太郎の姿からは、ひたむきな兄妹の深いきずなと信頼が伝わってくる。

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高良「美月ちゃんとは“恋人っぽくならないようにしよう”と話し合いました。東京を離れて、ずっと片貝でロケをしていたのも、プラスに作用したと思います。僕は台本を読んでどんなシーンになるのか想像がつかないとき、不安になって現場に行くのが怖くなることがあるんです。でも、今回は不思議なことに、分からない部分があっても、とにかく早めに現場に行ったほうがいいと思いました。美月ちゃん、(父親役の大杉)漣さん、(母親役の宮崎)美子さんと顔を合わせたほうがやりやすいし、その方がスムーズに理解できました」

谷村「兄妹役ってすごく難しいんですよね。これまでいろんな人の妹役を演じてきましたが、高良くんとの兄妹が自分のなかでいちばんしっくりきました。高良くんとは根元の部分が似ている気がします。お芝居へのアプローチや表現の仕方、作品への取り組み方が自分と近いから、一緒に演じていてとても安心感がありました」

高良は、「蛇にピアス」や「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」で社会からはみ出した影のある若者を演じ、高く評価された。今後も「ノルウェイの森」「白夜行」など注目作の公開が控える。谷村は、主演として名を連ねた熊切和嘉監督のオムニバス映画「海炭市叙景」が、東京国際映画祭コンペティション部門に選出された。

高良「僕が役を選んでいるのではなく、役に僕が選ばれているという感覚があります。役柄に自分が必要とされているという状況に、喜びを感じるんですよね。映画の現場に入ると、ツラいことやイヤなこともあるけれど、自分が求められていると思うと満たされた気分になります」

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谷村「私は流れに身を任せて、縁があったお仕事はジャンルにこだわらずチャレンジするようにしています。日々、新しい現場に入って、新しい人と接してお芝居をするというのは、かなりの体力を使うんですよね。毎日転校して、自分が試されている感じ。すごくしんどいと思うことも多いです。でも最近思うのは、仕事を通じていろんな人に出会うことで、人間的に成長できるんじゃないかなということ。自分もこうなりたいと目標になるような出会いや経験ができるし、今の自分があるのも過去の作品やそれらを通じて出会った方々のおかげだと思っています。かといって、自分がこの先どこまで頑張れるのかなという不安はあるのですが。だって……ねぇ?(笑)」

高良「うん。現場の経験を重ねれば自分の内側の恐怖はなくなるかと思ったけれど、全然そんなことないんですよ。現場はそのたびに違うから、前にできたことが次にできるとは限らない。前にできなかったことができることもあるし、やっぱりまだできないと落ち込むこともあって……。だから、僕も毎回いろんな学校に通っている気分」

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