劇場公開日 2011年1月22日

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「不完全なる報復」完全なる報復 レントさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0不完全なる報復

2022年9月14日
PCから投稿
鑑賞方法:TV地上波

興奮

邦題がミスマッチなので、本来なら表題のようにすべきだろう。原題は「法に従う市民」であり、内容に対して実に皮肉が効いている。

残念ながら、凶悪犯罪を起こす人間はその生育環境が劣悪であったり、社会のあらゆるセーフティーネットからも漏れた結果、歪んだ人格を形成し、他人に危害を加えることがある。これはほとんどの国で見られる現象であろう。

貧富の差やネグレクトなど、様々な要因で犯罪者が生まれるが、生まれながらの犯罪者は存在しない。誰も犯罪者になりたくてなるわけではない。彼らの置かれた状況が犯罪者を作り出す。本作の凶悪犯ダービーもやはりそういった生育環境に育った一人だろう。

近年先進国ではほとんど死刑制度が廃止されている。人権意識が高い国ほどそうである。何故なら先に述べた通り、死刑に値する凶悪犯罪を犯した人間にも事情があり、そして人権もある。
人権を重んじるはずの国がそれに反する人権侵害の最たる刑罰である死刑を実行することに矛盾を感じたからこそ死刑制度を廃止したのであろう。
だが、死刑にしないということは犯人の更生に向き合わなければならない。果たして通常人では考えられないほどの凶悪事件を起こした犯人を更生させる術を社会は持ち合わせているだろうか。
裁判所は刑期を定めて言い渡すだけ。刑務所は刑期が満了になれば解放する。それで更生して社会に順応できるかといえば、受刑者の多くは再犯で再び刑務所に戻ることとなる。
犯人の歪んだ人格を矯正出来るシステムが未だ社会では構築できてないのだ。

完全なる報復という邦題に値する内容としては本作の犯人であるダービーを更生させ、社会に復帰させることであろう。そうすることにより二度と同じような悲劇が生じない社会を作ってゆくことこそ完全なる報復の文言にふさわしい。

ただ、本作はアメリカ映画、それもサスペンス映画なので、堅苦しいことは言いっこなし。やはり被害者が凶悪犯に報復する様は見ていて溜飲が下がるのも否定できない。
しかし、単純な娯楽作として本作をとらえてもやはり不完全なる報復と言わざるを得ない。作品ラストで娘の発表会を見るニックの客席の下には爆弾が仕掛けられていて、そこで終わりとしたなら、邦題に相応しい作品にはなったであろう。

レント