劇場公開日 2010年5月15日

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「『ROOKIES-卒業-』と比べると、スポーツものとしては、盛り上がりが今ひとつです。」僕たちのプレイボール 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5『ROOKIES-卒業-』と比べると、スポーツものとしては、盛り上がりが今ひとつです。

2010年5月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 リトルリーグ誕生70周年作品にちなんで、リーグのあらましを、ある野球一家の出来事と絡ませて描いた作品。結局リトルリーグってこんな感じだよという感じが色濃くて、ストーリーの起伏がイマイチでした。
 野球映画は、ともするとプレイのシーンが単調になりがちです。本作も少年たちは清々しくて、悪くはないのです。ただ熱血の塊だった『ROOKIES-卒業-』と比べると、スポーツものとしては、物足りなさを感じます。

 主人公の球児は、父、恒雄が元メジャーリーガーという野球一家。誕生したときから野球のボールを投げたというくらい、年少期から野球に打ち込んできた野球のエリートでした。
 家の事情で帰国することになった球児が、リトルリーグのチームメイトのランディとリトルリーグ世界大会決勝での対戦を誓い合うというのが基本ストーリーです。
 けれども日本に戻って、所属した“東陽リトル”というチームは、どこか真剣味に欠け、凡ミスも目立つ、ダメダメチームでした。
 それとアメリカでの生活が長かった球児は、日本人の協調を大切にする考え方に、馴染めません。個人の能力よりも、チームプレイを強要されることに我慢が出来なかったのです。ついチームメイト達を叱責したり、コーチを差し置いて指導したりする。そのうちエースの前田正道やライトの野々村海と喧嘩になってしまいます。

 そんなある時、球児はチームメイトの沙希の母から沙希が、女の子なのにリトルを始めた理由を聞きます。そこには悲しい過去があったのです。
 ある休日、沙希は無理矢理球児をお祭りに連れ出しました。祭り会場で沙希が「来た!」と指差す神輿を担いでいるのは、チームの正道と海たち。球児は無理矢理神輿を担がされます。正道たちは驚ろくものの、球児に担ぎ方を教え、身体をぶつけ合い始めます。祭りの後、球児、正道たちは自分達の思いを語り始め、少しずつ心を通わせていくのでした。また、勇平も球児にキャプテンとして悩んでいることを正直に打ち明けます。

 次の試合で、エラーしてしまった球児。ベンチで落ち込み、言葉も出ません。それを帳消しにするように正道が特大のホームランを放ちます。球児は思わず立ち上がり、ガッツポーズ。それを見ていた他の選手たちも、呼応するかのように歓声を上げます。この試合をきっかけに、チームは段々とまとまっていきました。そしてワールドシリーズ出場を目指し、練習に励んでいくのでした。

 ダメダメチームが変わっていき、大きな大会で奇跡を起こすというのが、スポーツ映画の定番ですが、本作の場合、チームの変化がやや予定調和に流れてしまいました。もう少し、球児とチームメイトの葛藤があって然るべきです。みんな物わかりの早いメンバーばかりでした。
 さらに国内大会の描写も、予選からすぐ決勝へ山場を急ぐので、『ROOKIES-卒業-』のラストのような感動が得られませんでした。

 本作は、リトルリーグと平行として、球児の家族の絆も描かれます。
 母の加奈子は日本に帰る事を提案したけれど恒雄は受け入れなかったため、球児を連れて二人で帰国していたのです。しかも離婚届も渡してしまいます。
 それは、家族が突き付けた恒雄への引退勧告を意味するものでした。両親の離婚を知って動揺する球児。だけど恒雄は結果を残せず、マイナー球団を転々とするはめに。そして、新しいチームのある土地へ降り立ちます。そこは、奇しくもリトルリーグの開催地であるウィリアムスポートでした。
 自分の夢と家族の絆をかけて、恒雄は登板します。冴えないプレーに観客から日本バッシングを受ける父親を見て、声援に来ていた球児が突如歌い出すシーンは、ちょっと泣けてきましたね。

 ウィリアムスポートで、全ての伏線が重なり合い大団円となります。ランディと交わした決勝戦で対戦する約束。そして恒雄のプロとしての復活。また加奈子が渡した離婚届の行方。本当にもう少し、演出にメリハリをつけたら、もっと感動できたのになぁと悔やまれます。結局は、リトルリーグ70周年とワールドシリーズを見せたかったのかなという作品でした。
 それでも主演の球児役を演じた小原裕貴は目力が強く、存在感たっぷり。将来が楽しみな新人俳優ですね。 沙希の父親でそば屋の亭主をしている茂役には、プロレスラーの髙田延彦が出演。友人に「高田総統」がいるだけに、なかなかの演技力で、下町のオヤジを好演していました。

 1000人を越えるオーデションから選んだ12名の子供たちは殆ど無名に近い子ばかりでした。みんな野球の経験はあるものの合宿をしてゼロからチームを作っていったのだそうです。2ヶ月に及ぶ特訓は、真剣そのもの。その直向きさが、見ていてさわやかな心地よさを感じさせてくれます。
 映画はフィクションですが、「東陽リトル」のプレーシーンは、12名の子供たちの成長の記録でもあったのです。エンディングでは、練習風景が流されており、エグゼクティブ・プロデューサーである新庄剛志らしき人物も、楽しそうに加わっておりました。

流山の小地蔵