「あまりに正しすぎる世界は、面白みに欠ける。」サマーウォーズ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
あまりに正しすぎる世界は、面白みに欠ける。
仮想空間「OZ」を襲う脅威に、数学の天才である高校生健二と戦国時代から続く名家である陣内家が立ち向かうSFアクションアニメ。
監督/原作を務めるのは『デジモン・アドベンチャー/ぼくらのウォーゲーム!』『時をかける少女』の、日本アニメ界の巨人、細田守。
主人公である小磯健二の声を『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』で声優を務めた神木隆之介が演じている。
第33回日本アカデミー賞において、最優秀アニメーション作品賞を受賞している。
まずはじめに断っておきますが、この映画を決して駄作とは思いません。
アニメーションのクオリティは10年経った今見ても非常に高いですし、甘酸っぱい青春の香りが漂う良質なジュブナイル映画だと思います。
しかーし!個人的には全く乗れなかった。
というのも、この映画の描いている事があまりに正しすぎるからだと思っています。
仮想空間がどうのこうのとやっとりますが、とどのつまりこの映画が伝えたいテーマとは「家族の絆」でしょう。
家族の映画である以上、映画に登場する家族を好きになったり感情移入したりするものだと思うのですが、この陣内家の事を全く好きになれなかった。
この陣内家は家母長制とでも言えばいいのか、一族の権力を90歳の老婆、陣内栄が一手に担っている。
陣内栄は政界のフィクサー的な存在であり、日本国内において絶大な影響力を持っている様である。
そして一族全員が「ばーちゃん大好き❤」ってな感じ。
こんなデカい家で、90歳の余命幾ばくもない婆さんが権力者…
間違いなくドロドロした人間関係が生まれる!間違いない!
捻くれた見方だとは思いますが、やはり400年以上続く名家で、寿命が近い婆さんの誕生日パーティーが舞台なら、まずギクシャクした家族間を描き、日本を巻き込む大騒動を経て家族の絆を修復していく様を描くべきでしょう!
何を綺麗事抜かしてんだ!
第一、映画内で悪者寄りに描かれる侘助おじさんですが、彼は妾の子供であり他の一族の人間とは立場が違う。
そりゃあ、あんなベタベタ気持ち悪い一族の中で育てば反発もする。当たり前。
それなのに一族の人間は自分たちの態度を省みることなく、彼を最後まではみ出し者として描き、あまつさえ侘助本人も反省して改心するという結末…
同調圧力みたいで気味が悪い。
「家族の絆」が大切なんて、至極当たり前のことであり、それを映画のテーマに据えるには強度のある物語が必要である。物語に強度を出すためには嫌な物も描かないと。
当たり前の事を勿体つけて言っているだけの映画に価値などないでしょう。
陣内家の描き方には吐き気がするが、物語の細かいディテールもやっぱりあまりうまくない。
ヒロインである夏希のキャラの弱さは言うまでもなく、なぜ彼女が最後の勝負に挑んだのかわからない。
実は一族の中でもずば抜けて花札が上手いとか、そういう描写は絶対に必要。
あと、この夏希の声が…申し訳ないが桜庭ななみさんは声優に向いていない…。
あれだけの惨事の中、解決に向けて行動していたのが陣内家だけというのも…
ペンタゴンがそもそもの原因だったはずだが、あいつら何やってたんだ?
日本政府の人らも、栄さんに散々「あんたなら出来る」とか言われてたのに、最終決戦は陣内家に丸投げかよっ∑(゚Д゚)
あと、いまいち「OZ」の中での闘いで何が起こっているのかわからなかった。
そりゃ、キーボードをカチャカチャしとけばなんかやってる感出るんだろうけど、あれ何してたんだろう?「punch!」とか「jump!」とか打ち込んでたのかな?
最後の「よろしくお願いしまーす!」も具体的に何やってたのかよくわからんかったなー。
そもそも暗号解く方法ってなんだったんでしょうか?なんとなくで良いから観客に伝わる様な説明が欲しかった。
家族の絆で脅威と戦うという、至極真っ当な物語ですが、漂白されすぎていて面白みに欠ける。
扱っている題材から、どうしても細田守がかつて監督した『デジモンアドベンチャー/ぼくらのウォーゲーム!』と比較してしまうが、『デジモン』の文句のつけようのない完成度に、本作はまったく及んでいない。
そもそも『デジモン』の焼き直しの様な作品を作る意味があったのでしょうか?疑問です。