劇場公開日 2009年7月18日

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「ミステリーとしても、ヒューマンドラマとしても中途半端な作品でした。」湖のほとりで 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5ミステリーとしても、ヒューマンドラマとしても中途半端な作品でした。

2010年7月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 イタリアでアカデミー賞に匹敵する賞を独占した作品にしては、テーマや謎解きが中途半端で退屈しました。
 つかみはいいのです。美しい湖の畔で、半裸の女性の死体が横たわっている、しかも争った形跡もなく、むしろ犯人は遺体をいたわるかのように、殺した後の遺体の体型を整えていたというミステリアスな情景から始まります。

 しかし、この事件を担当している刑事サンツィオの直感で捜査が進んでいく展開には、チョット疑問。まず事件を見つけるのも、たまたま少女が行方不明になったという依頼を受けて探しているうちに、事件と遭遇するというもの。サンツィオがこの湖に何かが起きているはずだと訪ねていくと、思った通りアンナの死体が見つかるというご都合主義なんです。そして思いこみから、殺されたアンナの彼氏を誤認逮捕してしまうし、彼氏を捕まえといておきながら、疑いが残っている人物のところへたまたま立ち寄ったら、自分が真犯人ですと突如言い出すという信じがたい展開になるのです。誰かを庇っているのだろうと思っていたら、本当に真犯人で、事件は解決しエンディングに。ミステリーとして、連続殺人もない余りの単調な展開に閉口しました。

 ミステリーというよりも、『めがね』『カモメ食堂』のような緩さや癒しを狙っている作品なのかもしれません。冒頭の少女が
ひとりで下校しているショットは、とても穏やかで、その直後に殺人事件が発覚するミステリー作品には思えない出だしだったのです。
 そんな癒し系の背景に重ねて、サンツィオが捜査を進めるなかで、殺されたアンナも含めて村人のそれぞれに人に言えない秘密があったことが分かってきます。この作品は、一見ミステリーを装っていますが、誰もが皆“一番身近な人にも言えない悩み”を抱えて生きている住民たちの人間関係や家族のあり方や、それ故の葛藤を描いた作品だったのです。
 障害を持つ子供に素直な愛情表現ができない親。子供のことは全て理解しているという偏った愛。間違った両親の元に生まれてきたと感じる思春期の子供…。サンツィオもまた、若年性認知症に冒され、家族のことを忘れていく妻の姿を、娘に見せられないという人知れない問題を抱えていました。一見何事もないかのように過ぎ行く日々の中で。

。殺されたアンナが貫き通した“深い愛と強い信念”。そして死に急ごうとしたアンナの抱える秘密が分かる時、もう少しアンナの心情に肉薄して欲しかったと感じられました。まぁ、そんなアンナが唯一の心の支えとしていた彼氏を、依願殺人の容疑で、画面から遠ざけてしまったのが、致命的なミスだと思います。

 いずれにしても、ミステリーとしても、ヒューマンドラマとしても中途半端な作品でした。唯一の収穫は、サンツィオの偏屈さ。周りの人から、よく結婚できましたねと感心されるほどの筋金入り。あまりの偏屈さは、逆にユーモラスに感じるところがしばしばでした。
 気むずかしい顔をしながらも、どこか憎めないキャラのサンツィオが良かったと思います。
 音楽も、ちょっとシーンとは関係の少ない独創的なものだったということも、本作で印象に残ったポイントです。

流山の小地蔵